RING PETBOTTLE RECYCLING
3R推進マイスター 北野 大氏 インタビュー
 
マスコミに出ている人間の社会的責任
北野 大
櫻井 きょうはお忙しい中、お時間をいただき大変ありがとうございます。
 容器包装リサイクル法の改正に伴って3R推進マイスター制度が新設された中で、先生が3R推進マイスターをお引き受けになった経緯と、具体的な活動をお聞かせください。

北野 理科系の人間でマスコミに出ている人というのは極めて少ないですよね。経済とか政治を専門とする評論家は沢山いますが。自然科学的に環境問題を捉え、環境問題を自然科学の言葉で説明できるという人は少ない。その意味で私は特別なチャンスをもらっているので、環境について話をするということは、自分のようにマスコミに出させていただいている人間の社会的責任だと思っているんです。いつも、一般の人と専門家の橋渡しの役目を意識しています。誰もが知っている人が話しているのと、全然知らない人が話すのは、同じことを話しても聞き手にはやはり印象が違うのでね。そういう意味で、声をかけていただければ、自分の責任として環境問題に関し、お手伝いできるところがあればお手伝いするということで、引き受けている次第です。時間が許す限り、お手伝いして、少しでも皆さんに環境問題を理解していただきたいと思っています。
成熟した社会は相手に迷惑をかけない限り個人の自由を認めていく社会
対談写真
 環境問題というと、非常に悲観的に考えて、“もう地球はだめだ”みたいに考える人と、“全然問題ないよ”という楽観的な人と、いろいろな考えの人がいるでしょう。私はその時点その時点の最先端の科学で証明されていることをわかりやすく説明し、正しい理解に基づいた上でどう判断するかというのは各人の自由だと思っているんです。私が話をして、こうしたらというんではなくてね。例えば農薬について、「なぜ必要なのか」「農薬の安全をどうやって確認しているのか」までは理解してくださいとお話しします。それでもダメな方は無農薬や、減農薬の産物を多少高くても買えばいいと思っています。成熟した社会というのは相手に迷惑をかけない限り個人の自由を認めていく社会だと思うんです。きょうのPETボトルにしてもそう。そういう意味で、きちんとした理解に基づいた上で、あとの判断は自由。自分の判断が正しいからといって自分の考えを人に強制するのは違うと思います。
 従来の大学の先生というのは、幾つ論文を書いたかというのが、その人の評価だけれども、特に現在の環境関係を考えると従来の公害とは違うわけですから、やはり研究した成果をいかに皆さんに理解してもらうか、そこは環境科学や環境問題を勉強している人はほかの学問を行っている人とは違うと思うんです。今の環境問題というのは、ある意味で我々のライフスタイルにも関係してきます。研究をして、論文を書いて、最後は本箱にしまっちゃったんではしようがないのです。その成果をいかに皆さんにお伝えするか。特にそういうことで、私は橋渡しみたいなことをしています。意識的に、時間がある限りお手伝いしています。
レベルに応じた環境教育が必要
櫻井 正人
櫻井 3R推進マイスターは、容器包装廃棄物排出抑制推進員ということで始まっているわけですが、大学での環境教育という側面から見た3R活動のあり方について、ご意見をお聞かせください。

北野 3Rというと並列に考える人が多いと思いますけれども、私は縦だと思っているんです。まずリデュースで、次はリユース、そのあとに来るのがリサイクルだというふうにですね。さらにその後には適正処分。そういう考え方が必要だと思っています。
 それから、環境教育上大事なのは、例えば幼稚園児なのか小学生なのか、あるいは中学生、高校生、大学生かという、その生徒や学生のレベルで考えないといけないんです。小学校のころは習慣づけだと思っています。たとえばゴミは分別して捨てるものだということです。中学から高校になってきたら、なぜ分別やリサイクルをしなくちゃいけないのかという、その「なぜ」という科学的なところを教えていく。そういうことだと思います。大学生については、例えば原子力発電にしても、現在の日本における寄与とかいろいろなことを全部教えて、その上で君らはどう考えるかというような授業をやっています。繰り返しますが、高校生については、なぜリサイクルしなくちゃいけないかということを教えなくちゃいけない。小学生ぐらいだったら、分別するということを習慣づける。だから子どもたちのレベルに応じて教える方法も変えなくちゃいけない。ただ、最終的には本人が理解して、納得して、行動していく。ただ、上からやれというからしようがなくやるのではなくて、なぜリサイクルすることが必要なのか。それは資源の問題とか環境汚染の問題とか、いろいろありますよね。その辺のところをきちんと、少なくとも高校生になったら教えないといけないと思うんです。「なぜ」、そこが大事だと思います。

対談写真
櫻井 小学校の間は、まず行動を起こして。

北野 そうですね。習慣づけですよ。

櫻井 その意味はわからなくても習慣づけをしていって、考えることができる年齢になってきたときに、なぜやらないといけないかを教えていくことですね。

北野 そこを教えないとだめですよね。ただ、むやみやたらに「やれ」と言ったって、理解して納得して行っている場合と、ただ上から言われるからやっているのでは、違いますものね。そういうふうに相手のレベルに応じた環境教育が必要だと思います。
 さらにもっと言うと、今の環境問題というのは、私たちのライフスタイルというか、価値観にもかかわってくると思うんですね。単に技術的なことだけですべて環境問題を解決するということではなくて。環境問題というのは、技術とモラルというか、別の表現をすれば技術と制度ですよ。その両方で解決しないといけないと思います。さらにもっと言うと、その制度、モラルの中に人生観みたいな、豊かさをどう考えるとか、そこの辺まで必要かなと思っているんです。たとえば「少欲知足」などの話をしています。
環境問題、資源問題に対してやるべきことはやっています
対談写真
櫻井 今、先生が教えておられる大学の中で容器包装の管理の仕方や分別の状況はどうなんでしょうか。

北野 それはもうきちんと分けていますよ。PETボトル、びん・缶とかのように。本当はアルミ缶とスチール缶は分けて廃棄しなくちゃいけないんですけれども、大学内で は缶は缶で一緒、びんはびんということで、ちゃんと分けています。

櫻井 学校内ではきっちり分けられて、生徒さんへの教育もされているんですね。

北野 そうですね。古い話で恐縮ですけれども、私がちょうど大学院のころに東京ゴミ戦争というのがあって、私は当時、「先生、これからは分別してリサイクルだ」といったら、その先生は「北野君、日本国民にはそれは無理だよ」なんて言われましてね(笑)。今でも覚えていますよ、酒飲みながら先生に言われたのを。それから40年たって、はっきり言って、ゴミというのは分けて捨てるというのが定着してきたんじゃないでしょうか。今の大学生は子供のころからそうやっているはずですから、何の苦にもならない。分けるのは当たり前みたいにですね。この変化、すごく大きいですよね、習慣にしちゃうというのは。私自身も、できるだけ紙の裏を使うようにしているとか、環境問題、資源問題に対し、やるべきことはやっています。

みんなの総意に基づいて動く社会
対談写真
櫻井 私どもは3R推進自主行動計画を立ち上げて、その中でも主に主体間の連携、行政と自治体、それから市民、事業者ですね。その連携をしていかないとなかなか難しいだろうと、いろいろ取り組んではいるのですけれども、何かご意見があればお聞かせください。

北野 最近、リスクコミュニケーションという言い方をしていますね。従来の日本の社会というのは、行政が上にいて、そこがすべて判断して、国民に決めたことを守れという社会でしたね。けれども、これからの社会というのは、自分たちが合意をして、例えばリスクならリスクについてどこまで認めるかということを決めていく、そういう社会だと思います。民主社会というのは社会を構成する人たちみんなの総意に基づいて動く社会だと思うんです。その総意の下には、当然きちんとした理解というか、判断が入ってくる必要があるわけです。特にPETボトルのような一般に使用されるものについては、消費者の協力というのは絶対必要です。そこはぜひ消費者も理解していただくということだと思うんです。
心の豊かさは感動と感謝から
対談写真
櫻井 循環型社会形成に向けての課題についてはいかがでしょうか。お話をお聞かせいただければと思います。

北野 社会を循環型にするということで、製造、流通、使用、廃棄、リサイクルという輪がありますよね。望ましいのは「資源、エネルギー低投入型」の循環型社会。もっとわかりやすく言えば、“スローな循環”と言っています。製造、流通、使用、廃棄、リサイクルをスローな循環にするというのが提案されていることです。どこをスローにするかというと、やはり使用のところです。使用のところをスローにするということは、長くそこに保つということで、いいものを長く大事に使っていくという、そういう社会にしないといけない。ただ、循環すればいいというものではないんです。長期の使用に耐えるものがこれからの企業に要求されると思います。これはいわゆるいいものですけれどもね。決してブランド物ということではなくて。私は、そういう物を使うことによって、そのもの自体の持つ物質的な価値に加えて、それに精神的な、心理的な価値が加わってくると言っているんです。この時計は実は弟にもらった時計なんです。自分でも気にいってます。これは大量生産された単なる1つの時計ですね。これを20何年も使うことによって、今では完全に自分のものになってきている。これは弟からもらったということで、弟との絆みたいなものを感じますね。これを将来うちの息子に形見に置いていくと、この時計を使うたびに、息子はたまには私のことを思い出すかなとか。そういうことで、物というのはつくられたときは単なる工業製品の1つだけど、長期に使うことによって、思い出が入ってくるし、また、物を通して親子、兄弟、友人との愛情などの心理的な価値も出てくる。そのためにはやはり長く使っていかなくちゃいけない。ということは、長期に使うことに耐えられるものでなくちゃいけない。それがスローな循環ということだと思います。社会を循環型にすることで、最終的には持続可能な社会というものを考えていかなくちゃいけないんです。
 今は、物から心の豊かさを求める時代になってきているんですね。私なんか教員ですから、年に何回も結婚式に出ますので、家には引き出物などの品物がかなりあるわけです。ところで、心の豊かさというのは何か。これはなかなか難しいんですが、私自身は、生意気なことを言うようですが、“感動”と“感謝”だと言っています。感動というのは本物を見る、本物に触れる喜び。巨人戦はテレビで見るよりも実際に野球場に行ったほうが感動が多いわけです。音楽もCDで聞くよりもコンサートホールに行って聞いたほうがいい。そういう本物志向だと思うんですね。本物を見る、本物に触れる。そういうことが感動。一方感謝ですが、人に感謝されることは生き甲斐だと思っているんですよ。それが心の豊かさにつながってくるのかなと思っていますね。
 だから私自身は、スローな循環、そして価値観をそろそろ物から心へ持ってくる、心の豊かさは本物に触れる、本物を見る、本物を持つという感動と、感謝されるということなのかなと考えています。
 この名刺に「江戸川総合人生大学」と書いてありますね。まさに感謝される人材をつくろうというのが江戸川総合人生大学の設立の趣旨なんです。定年後に地域活動で貢献できる人材、そんなことを考えている大学です。
物事をなすには良いスローガンが必要
対談写真
櫻井 最後に、先生が3R推進マイスターとして、今後、どんな活動をしていこうと思われているのか、お聞かせください。

北野 言葉というのはとても大事で、人を動かしますよね。その意味で「3R」が誰でもが理解できる良い日本語になるといいんですけれども、それがまだないと思います。リデュース、リユース、リサイクルの3Rという言葉自体を統括するような良い日本語がほしいですね。

櫻井 そうですね。少し工夫がいるかもしれませんね。

北野 そうなんです。何かもうちょっといい言葉がほしいですね。物事をなすには、良いスローガンが必要なんです。かって有名になった大分県の一村一品運動なんて、あれはすばらしい言葉です。何かそういういい言葉があるといいけれども。それと、タレントさん、いわゆる若い人に人気のあるアイドルがあまり環境問題をしゃべらない。アイドルみたいな特に若い人に人気のあり、社会的な影響力がある人がもう少し環境問題の話をしてくれるといいと思います。それと、子供のときからきちんと環境教育を行うということで、環境という側面ですべての授業をすることを提案しているんです。登校時には車が何台走っているかとか、給食なら、食べている物がどこからきているのか、どのぐらいの距離を運んできているのか、加熱などの調理にどのくらい時間がかかったのかなど、そうするとこの食べ物を作るのに、二酸化炭素をどのくらい出しているのかが分かるとか、理科は理科で世界のいろいろな各地の気温がどうなったか見てみようとか、いろいろできると思うんですよね。そういう環境という切り口で授業をある程度調整できたらおもしろいのかなと思っています。

櫻井 3R推進マイスターとして、ぜひ容器包装も含めて、初めにおっしゃった社会的責任の中で推進していただければと思います。本日はどうもありがとうございました。
 
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