RING PETBOTTLE RECYCLING
3R新時代の展望 “3R推進マイスター”土屋正春氏に聞く 循環型社会のあり方
3R推進マイスターとして、声がかかれば、どこへでも
滋賀県立大学 副学長 土屋正春氏
公文 お忙しい中、お時間をいただきまして、ありがとうございます。

容器包装リサイクル法の改正で、いわゆる3R推進マイスター※1が設けられましたが、土屋先生がその依頼をお受けした経緯と、滋賀県でどのように活躍の場を広げていらっしゃるのか、お聞かせください。

土屋 滋賀県から要請があった時に、その趣旨を聞いて、「私の経験がお役に立てるなら喜んで」と、引き受けました。これまでに3R推進マイスターとして、市民向け、企業向けの講演会を5回ほど行いました。

リサイクルの問題というのは、いろいろな角度から働きかけないと動きません。以前、大阪府吹田市に厚生省の支援の下で千里リサイクルプラザを設立する際、設立メンバーとして全体のコンセプトを考えました。私たちが重視したのは、建物の設備ではなくて、ソフトウェアの問題です。ごみを減量するために、市民あるいは企業の人と、どういうネットワークをつくるかという制度設計をしました。以来ずっと、市民の皆さんと一緒に研究会を続けています。

そういう経験を通じて感じるのは、欧米の市民運動は、行政を通じて実際にインスティチューション(制度)になるのに、日本の場合はなかなか制度をつくるところまでは結実しないということです。この違いを感じていたので、今度は別の角度から、お役に立てるならと思ってお受けしたのです。

全国の何十人かの3R推進マイスターが地域に情報を持ち帰って、どう発信していくのか。あるいは手をつないでいくのか。私自身の問題意識としてもこの点を非常に強く感じています。

千里リサイクルプラザを設立した時とは、今は状況が変わっています。運動の進め方なども、昔のままのスタイルではなく、21世紀タイプのムーブメントをつくっていかないといけない。同じことの繰り返しでは皆さんはついてこない。そんな気がしています。

3R推進マイスターは、市町村の要請があったら、講演会やそのほかの活動に出ることになりますが、それぞれの3R推進マイスターがそれまでのノウハウを総動員して働きかけを広げていくのです。
各主体間の連携には、イメージの共有化とコミュニケーションが必須
公文 私たち事業者は「3R推進自主行動計画」を策定し、その大きな柱の一つとして「主体間の連携に資する取り組み」を取り上げました。今、具体的な行動を開始しているところです。そこで、既に主体間連携を実現されている滋賀グリーン購入ネットワークの代表というお立場でお伺いしたいのですが、各主体間の連携について方向性がいまだにはっきりとしていないところがあります。こうあるべきじゃないか、こういう方向で動くべきだ、というご意見がありましたらお聞かせください。

土屋 手をつなぐというのは、完成されたイメージを共有していないとだめですね。たとえば、それをシステムという言葉で置きかえると、行政と市民と事業者、この3つが合わさったようなシステムでないとだめなんです。ここまでは理想論です。でき上がるシステムは無形の共有財産であり、自分のものでもあり、あの人たちのためでもある、という意識を、どう育てて、どう実際に回すかです。

千里リサイクルプラザの勉強会で行政、市民、事業者の三極構造を絵にして、それぞれを結ぶ辺でどういう活動が行われているのか、ざっと洗い出す作業をしたことがあるのです。何百も出てくるのですが、市民と事業者の間のコンテンツが一番薄いのです。

公文 わかるような気がします。
「共有されるシステムで何をつくるのか」三角錐の頂点にピカピカ光る星"
土屋 行政というのは、市民に対しても事業者に対しても、いろいろと注文を出してくる。それに市民も応える、事業者も応える。でも、市民と事業者との間のコンテンツが非常に薄いのはどうしてだろうか。今までは売ったり買ったりする間柄だけのことで、いったん事が起きると、たとえば製造者責任みたいなことに、いきなりポンと飛んでしまい、日常的に共有できる関係というのがほとんどないままでした。

でも、サスティナビリティ(持続可能性)そのものが問題になっている時代なので、「共有されるシステムで何をつくるのか」ということを、話し合う場が必要だと思います。そういう点で、グリーン購入ネットワーク(以下「GPN」)※2などはとてもよい場面だと思います。

公文 そうですね。

土屋 問題が深刻になればなるほど、コミュニケーションはもっともっと必要なのですが、それがなかなかうまくいかないと感じています。

公文 市民・市町村との意見交流会の中で何が問題なのか、何が課題なのかを考えながら、また事業者には何ができるのかを議論していますが、先生がおっしゃるように、今はまだピタッとは、いかない感じがしています。

土屋 でも、やらないといけないのでしょうね。だから、三極構造を描いた場合に、それぞれの極で構成する三角錐の頂点にピカピカ光る星があるはずです。それを支えるために自分たちがどうあるべきか、お互いがどうなのかと、さっき無形の共有財産だということを申し上げましたけど、そういうことについてのコミュニケーション自体がまだ足りないと思いますね。

その三極構造のピカピカ光る星というのは、結局は大きな星になるはずですから、それをどうするか。そのためには、制度としての強制力が必要な場合もあるでしょうし、それは市民も事業者も甘んじて受け入れないといけない場面というのはあると思いますよ。

GPNの運動が良いのは、私が見ている限りでは、非常にふにゃふにゃした緩やかな構造になっている点です。ある意味で本音を聞けるのです。これは生産的なコミュニケーションには不可欠な要素だと思いますね。国民会議や、審議会などは、そうならないといけない。

公文 緩やかな、言いたい放題なことから入ることも必要でしょうね。

土屋 それは絶対必要だと思います。今は時代の認識を持った人がだんだん増えつつある。いろんな映画や本が出たりして、「私は、ここはできないから、ちょっとあなたの方で何とか頑張ってくれない。頑張ってくれたら消費者としても応援しますよ」と。それは智恵の積み重ねで、私は絶対できると思いますね。
3R推進マイスターとしての提言“事業者は消費者へ多くの正確でわかりやすい情報を”
公文 PETボトル固有の3Rの話になりますが、先生が日本のPETボトルの3Rについて課題と思われているようなこと、私たち推進協議会が、3つのRを推進する点で、何か厳しいお話がありますか。

土屋 別に厳しくもなんでもありません。もっと国民に実情を教えてあげることです。PETボトルがワイシャツになるぐらいはみんな知るようになった。でも、PETボトルの流れと、お金の逆ルートがどうなっていて、どれくらいみんなが負担していて、というようなことは、もっと教えてあげるべきだと思います。ほとんどの人は、それを全く知らない。関心がある人さえ知らないのだから、すごくもったいないし、それを知っていることを前提にした次の考え方を消費者に期待するのも無理だと思います。

公文 自分たちの出したPETボトルが何に生まれ変わったのか。それだけの情報でもうまく伝わりはじまれば、リサイクルセンターや市町村に、「私たちの出したものは、これに変わっています」と、具体的に説明できるようになりますね。

土屋 それはすごく大事なことですね。それぞれの市町村の集積場所などを、そういう先が見える情報提供の場として活用するのもいいですね。そうすればもっと自分たちの行為の意味がわかるのじゃないですか。そういえば、今年から、公共広告機構を使った広告をされるそうですね。

公文 ええ。3R推進団体連絡会で告知を開始します。できれば3年間は継続して3Rの推進に関係する普及広告を続けていきたいと思っています。

土屋 大事なのは続けることです。何かをしたい人は知ることによって、自分をより活かせるのです。エネルギーがある人に、きちんとした情報を伝えることは、エネルギーを発揮することにつながるわけですから。

ごみが大きな問題ということは、ある程度知っているが、面倒くさいと言って逃げている人がいるわけです。一方で、「逃げていては問題が解決しない。自分たちの孫、そのまた孫の時代は一体どうなるのか」という人たちのエネルギーをどう発揮してもらうか。そのためには、正確でわかりやすい情報を出して、その情報の使い方を啓発セミナーなどで繰り返し伝えていくことが大切です。

公文 私たちがセミナーなどを開催した場合も、積極的に意見交換を行なわないといけないのでしょうね。

土屋 拡大生産者責任と同じように、拡大消費者責任という考え方があっても良いと思うのです。新しい時代の消費者のあり方としては、今までと同じで良いはずはないのです。そうしないと、頂点のピカピカ星は絶対に共有できません。そうなれるかどうか。そのためにも、正確な情報をどんどん出すことです。コミュニケーションの場をたくさん設けることですね。

公文 いろいろ良いお話が伺えました。
ありがとうございました。
※1 3R推進マイスターとは
改正容器包装リサイクル法で、環境大臣が「容器包装廃棄物推進員」を委嘱する制度が新設されました。3R(リデュース、リユース、リサイクル)を推進するために、国や市町村の啓発活動に参加したり、講演や執筆活動を通じて消費者に助言したりする役割を担う人のことを言います。
市町村推薦 52名 / その他知識人 17名

※2 グリーン購入ネットワーク(GPN)とは
グリーン購入の取り組みを促進するために1996年2月に設立された企業・行政・消費者のネットワークです。全国の多種多様な企業や団体が同じ購入者の立場で参加し、幅広くグリーン購入の普及啓発を行っています。
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