RING PETBOTTLE RECYCLING
【特別対談】環境革命 胎動から大きな動きへ
 2004年度版環境白書のテーマは「環境のわざと心」。わざと心を組み合わせることで、環境と経済の好循環を生み出せると強調しています。さらに2004年度の通常国会で成立した「環境配慮促進法」(※1)で、グリーン購入促進の後押しも力強さを増しています。
 今回は環境保全をバネにした経済の発展、すなわち「環境革命」を提唱されている小池大臣をゲストにお迎えし、リサイクルから見た「わざと心」を語っていただきました。(2004年6月15日 大臣室にて)
司会 本日は、お忙しい中、PETボトルリサイクル推進協議会にお時間を割いていただきまして、本当にありがとうございます。
 また、大臣にお話を伺う機会を持つことができまして、協議会としましてもまことに光栄に思っております。
 先日、環境省が出されました「環境白書」(※2)の中で、「環境のわざと心」という大臣のお考えを読ませていただきまして、大変感銘いたしました。
 本日は、時間に限りがございますが、今私どもが活動しておりますPETボトルのリサイクル推進に絡めまして、大臣の言われる「環境のわざと心」のお考えなどを、お伺いできればと思っておりますので、よろしくお願いいたします。
大臣 今日いくつもお持ちいただいたPETボトルに入れられているサンプルは何ですか。
豊田 これはPETボトルの原料となるペレットやフレークです。
大臣 (PETボトル原料を手に) これはその後、何に使うのですか。
豊田 これを使いまして、押し出し加工という熱を加えて溶かす方法で、繊維やシートをつくります。最近ですと、「ボトルからボトル」ですね。業界においても、ボトルが完全循環することが夢であったわけです。世界に先駆けて、新しく石油から直接つくったものと同じものがつくれる技術で、今年の4月から実際に、この樹脂を原料として使ったPETボトルも市場に出始めました。
大臣 価格は、今どれぐらいのところまで来ているのですか。
豊田 従来の石油からつくる場合とまったく同じ価格でできるようになりました。
大臣 それはPETボトルの回収がうまく軌道に乗り出したということが背景にあるのですか。
豊田 それは大きい要因ですね。 私どもは「ボトル to ボトル」と呼んでおりますが、1つの工場だけで6万2000トンの処理能力があるのです。この6万2000トンを材料として5万トンのPETボトルの原料を新しくつくることになっています。
 1997年には約10%だったPETボトルの回収率が、消費者、市町村や環境省のお力添えをいただき、2003年度には市町村回収だけで約50%、市町村以外のものも含めますと約60%ぐらいになります。非常に短期間に世界最高水準にまで回収率が上がってきました。私どもが捕捉できていない事業系や、海外へ輸出されているようなものを含めますと、回収率はもっと高いのではないかと認識しています。
大臣 私はかつて、企業家の方たちの取材をやってきましたので、実際に仕事をやっておられる現場のお話を直接伺っておくことは一番重要だと思っています。それは大臣であれ、マスコミであれ、同じです。ぜひ、生の声をお聞かせいただきたいと思います。
豊田 大変ありがたく思っています。私は日本でPETボトルができた時から、PETボトルの仕事をずっと やっております。途中、アメリカへ行きました時も、現地の工場でPETボトルの業務に従事していました。
環境大臣 小池 百合子
1976年カイロ大学文学部社会学科卒業
ニュースキャスターなどを経て
1992年参議院議員初当選
1993年衆議院議員初当選
1999年経済企画総括政務次官
長年にわたり、中東・イスラム研究を通じて
少資源国・日本のエネルギー問題に取り組み
2003年9月環境大臣に就任
 軽量化などの「わざ」でさらなる努力を
大臣 PETボトルというネーミングを考えられたのはどなたですか。
豊田 これは化学メーカーだと思うのですが、「POLYETHYLENE TEREPHTHALATE」(ポリエチレンテレフタレート)の頭文字からとっています。
大臣 私は、ネーミングはとても重要だと思っています。というのは、アメリカでも、例えばメールのアドレスで、点をドットと読むのか、 ピリオドと読むのかによって、普及の仕方が全然違ったと言われています。「.com」を「ドット・コム」と読む。あれが「ピリオド」だったら、ここまで普及しなかったと思います。ドットにしたことが、成功の秘訣の一つになりました。
 そういう意味でネーミングは非常に重要ですね。PETボトルは日本のほとんどの人に完全に理解されています。ただし、動物のペットと間違える人はまだ多いとは思いますけれど。(笑)
豊田 日本では、PETボトルの場合、「PET」と書かれていますが、アメリカでは「PET」というのは、他のもので商標登録されていますので、「PETE」(ペテ)(※3)という書き方をしています。
 大臣が言われた「現場」という意味では、まさに私どもは現場を担っている事業者の集まりですので、環境にどれだけ貢献していくかということでは、つねに3R(リデュース、リユース、リサイクル)(※4)の追求という共通認識をもっています。リデュースの取り組みでは、ミネラルウォーターのボトルの場合、2LのPETボトルの重量が従来の69gが59gに、10g軽くなっています。
大臣 サンプルのPETボトルに書かれている重量表示を見ているから余計軽く感じます。(笑)
豊田 アメリカで今一番軽いと言われている2Lボトルは75gです。それが日本では現在59gです。一番普及している500mlのPETボトルは、32gから26gに軽量化しました。
大臣 薄くなっても強度は確保 されているのですか。
豊田 はい、強度は保たれています。リデュースによって2004年度に節約された材料は約4万トンになります。
 3Rイニシアチブの提唱で、循環型社会の新たな構築を
大臣 まさに「わざ」の部分は皆さんに担っていただいているわけですね。またこれからもいろいろと容器包装リサイクル法の制度を変えることによって、さらにそういった努力に拍車がかかるという好循環をぜひとも生み出していきたいと、私どもも考えています。
 さっきおっしゃったリデュースの件ですが、今年の6月に開催された主要国首脳会議(シーアイランドサミット)(※5)で、小泉総理は、3Rというキーワードで循環型社会を築いていかなければならないという考えの下、「3Rイニシアチブ」(※6)を提唱しました。この循環型の社会を構築していくのは、先進国のみならず開発途上国でも重要なファクターですから、3Rの推進を世界共通の課題として捉えていこうというものです。今回のサミットに関してはイラクや北朝鮮問題ばかりが報じられていましたが、日本が世界に発信したきわめて大きなテーマとして、小泉総理も熱弁をふるわれたそうです。日本としてしっかりリーダーシップをとっていくためにも、皆さんには、「わざ」でぜひとも努力していただければと思っております。
豊田 大臣も、やはり日本から世界へ、環境について強い発信をして いくべきであると「環境白書」の中でもおっしゃっていますが、私どももその「心」を酌んで頑張っていきたいと思います。
PETボトルリサイクル推進協議会
会長  豊田 保
1966年、株式会社吉野工業所に入社
米国シカゴ工場長などを経て
2003年 本社取締役(国際・技術管掌)
2004年 常務取締役
2004年PETボトル協議会会長および
PETボトルリサイクル推進協議会会長に就任
 環境問題への取り組みは、「 楽しく工夫 」を
大臣 つくづく思うのですが、環境問題への取り組みは、国民の意識が高く、かつ、協力がないと成り立ちません。政府も業界も、ただ旗を振っていればいいかというと、そうではありません。容器包装リサイクル法もまもなく10年がたちますし、これからさまざまな見直しも進めるところです。容器包装リサイクル法によって、2002年度で約240万トンの容器包装が収集され、再商品化されるようになりました。これまでの努力の結晶です。
 再商品化原料である使用済みのPETボトルが、まず仕分けされ、回収されて、それが工場へ運ばれて、皆さんによってまた新たなものになっていく。そのための新しい産業も生まれています。
 私の任務は「環境と経済の統合」です。これまで環境というと、どちらかといえばコストがかかって、経済の重しになるととらえられてきました。その考えを改め、むしろ、環境に取り組むことが経済を循環させ、それによって、さらに環境への取り組みが進むという好循環を、いつも頭にイメージしてやってきています。
豊田 特に6月は環境月間で、大臣も啓発活動でお忙しくされていますね。
大臣 ええ。地球環境問題をテーマにした映画(デイ・アフター・トゥモロー)を観たり、地球温暖化防止活動に協力をいただいている“モーニング娘。”ともお友達になりましたよ。
豊田 大臣がご覧になった映画が話題になっていますが、私どもも6月は大きなイベントがあり、子供さんにも理解しやすいパンフレットなどを用意して協力をさせていただいています。いろいろなところで環境ということに触れる機会が増えることはいいことですね。
大臣 そうですね。また環境は楽しいというイメージを体感してもらえるように、いろいろと工夫をすることが求められています。やはり何でも長続きするものは、どこかに楽しいとか、好きだとか、そういう人間の基本的な感情がプラスに働くことが必要です。嫌なことはなかなか続かないものです。環境問題への取り組みは楽しいんですよ、そしてこの地球がそれによってさらに守られるんですよと。ただ、言葉では簡単ですが、目指す方向を現時点で考えると、実際にはまだまだ距離があります。さまざまなシステム設計とともに、皆さんのような業界の方々に努力していただけるように図っていくことによって実現していきたいと思っています。
 「環境配慮促進法」成立で、グリーン購入がさらに促進
豊田 今、PETボトルの分別収集に参加していただいている市町村は、全国の約9割になりました。やはり全国の消費者の皆さんが、未来を見据えた形で自発的に行動されて、市町村の分別収集がますます進んでいって欲しいと思っています。
大臣 そうですね。特に市町村での回収率が高くなると、さらに技術開発の可能性も出てくるわけで、まさに「ウイン・ウインのサイクル」(相互利益の循環)に入るようになります。PETボトルが非常に使い勝手が良いことは、消費者の知るところですが、リターナブルとどうマッチさせていくかは、実は大きな問題だと考えています。
豊田 ヨーロッパの一部で行われていることは承知しています。私どもも情報を集めていきたいと思っています。
 国の施策であるグリーン購入の促進は、市町村の皆さんが制服やボールペンなどのリサイクル品をお使いいだいており、非常に大きな力になっています。
大臣 今回、消費者や、いわゆるステークホールダーの方々に、各企業がどのような環境保護の取り組みをしているのかをより広く知ってもらうために、環境報告書の普及をさらに進める「環境配慮促進法」を、成立させました。これによって、環境に対してしっかり取り組んでいる企業について知ってもらえます。
 政府も含め、グリーン購入がさらに進む後押しにもなるでしょう。PETボトルの場合は特に民生分野ですから、個人の皆さんにもよく知っていただきたいですね。環境が、いい意味でファッションになっていき、環境はかっこいいという形にまで持っていくことで、さらに国民の意識も高まるでしょう。それによって市場規模も広がっていく。そんな好循環を念頭に置いています。
 環境の未来を見据えて現在は「環境革命」の胎動期
大臣 ところで、このバラの花は何ですか。
豊田 このバラもPETボトルのリサイクル品です。
大臣 このバラがPETボトルでできているんですか。
豊田 500mlのボトルが20本分ぐらい使われています。専門的に言いますと、この花や葉に酸化チタンが塗布してあり、その光触媒の作用により消臭効果を出し、空気清浄などをします。
大臣 使用済みPETボトルからさまざまな商品が開発されているのですね。
豊田 ええ。ベンジャミンのような大型の観葉植物も開発されています。
大臣 このネクタイはどうですか。
豊田 これはPETボトル1本分ぐらいです。ネクタイのほかスカーフもあります。
大臣 このスカーフはすごくシルクっぽいですね。PETボトルからできたとは全然わからないですね。日本のリサイクル技術はほんとうにすごい。さらに「ボトルtoボトル」がこれからの一番のポイントですね。
豊田 ええ。PETボトルがもとへ戻って完全に循環できるということですね。本年度は「ボトルtoボトル」は再商品化量の21%ぐらい見込まれています。
 「環境白書」の「環境革命の胎動」という項目に、低公害車と省エネ家電に並んでPETボトルをとりあげていただきました。私どものリサイクルへの取り組みが国民の皆さんに大いにアピールできたと思います。PETボトルのリサイクルや技術革新をさらに進めていかなくてはと、意気込みに弾みがつきました。
大臣 「環境のわざと心」を含む「環境白書」には「環境革命」についても強調しました。これまでいろいろな革命が起こり、政治的な革命もさることながら、産業革命からIT革命がありました。今は「環境革命」の時代である、そういう大きな構えで環境問題に取り組んでいく必要があると、私は声を大にして申し上げているのです。
 また、日本という国は、資源が非常に乏しい。日本そのものがどこか油田の真ん中に引っ越すならともかく、どのように資源を効率的に使うかに挑戦し続けることが、日本の宿命だと思っています。逆にその現実が日本の技術をこれまで強めてきたドライブになってきているし、それこそが日本のエネルギーなのです。
 今は「環境革命」の最中であるという認識が広く伝わるようにしていきたいですね。革命の担い手として、これからも、「わざ」の開発をさらに進めることで、ご協力をお願いします。
豊田 大臣のお言葉を、私どものこれからの糧にして頑張っていきたいと思います。
司会 本日はどうもありがとうございました。
※1 環境配慮促進法
「環境情報の提供の促進等による特定事業者等の環境に配慮した事業活動の促進に関する法律」。事業者の環境報告書等の作成・公表の普及促進等を図り、事業者の自主的な環境配慮の取組みが社会や市場から高く評価されることによって、事業活動に係る環境配慮の取組みを促進することを目的とする。(2005年4月1日施行)
※2 環境白書
2004年5月発行
※3 PETE
「PETボトル」のアメリカでの表記「POLY ETHYLENE TEREPHTHALATE」の頭文字。
※4 3R
資源循環型社会形成に必要な、Reduce(軽量化)・Reuse(再使用)・ Recycle(再利用)の頭文字をとった略称。
※5 シーアイランドサミット
第30回主要国首脳会議。アメリカジョージア州沿岸の島シーアイランドで、2004年6月8日開催。
※6 3Rイニシアチブ
シーアイランドサミットにおいて合意したグローバルな視点から3Rを通じて循環型社会の構築を目指す新たなイニシアチブ。小泉総理の提唱によるもので、2005年春に日本において各国の環境大臣等の参加を得て閣僚会議を開催する予定。
TOP BACKNEXT PET
Vol.14PETボトルリサイクル推進協議会