第三者意見
織朱實氏(おりあけみ)
関東学院大学法学部教授 法学博士
環境法に係るリスクコミュニケーションを研究し、環境リスクマネジメント、リサイクル、廃棄物、化学物質に関する分野で活躍。環境省中央環境審議会専門委員、経済産業省産業構造審議会委員、文部省科学技術学術審議会専門委員などを務める。
〔著書〕
『環境リスクと環境法(米国編)』『環境リスクと環境法(欧州編)』(共著)、『よく分かる廃掃法、リサイクル法、容器包装リサイクル法』、『PRTRとは何か』(共同講演録)など
市民目線を意識した報告書
PETボトルの3Rに取り組む「PETボトルリサイクル推進協議会」が年次報告書を発行し始めて9年。今年は、9回目の年次報告書です。年次報告書は3R関連のデータが充実しており関係者の間で貴重な資料として活用されていますが、それに加え毎年、より市民に分かりやすくするための工夫を凝らしている点を高く評価しています。今年も、「2008年度トピックス」を写真や図表だけにする、軽量化の事例を写真で見せるなど、より具体的で見やすい誌面づくりが行われています。さらに、「市民目線の年次報告書」への努力は、「ステークホルダーダイアログ」という形で、5人の市民の意見を掲載しているところにも示されています。事業者から、一方的に情報を提供するだけでなく、市民からも意見を聞き取り入れていこう、という意気込みが感じられます。
より実態に近いリサイクル率把握への取り組み
最近のPETボトルの3Rをめぐる大きな問題は、「PETくずの海外流出」「リサイクルの見える化」「リデュースの促進」でしょう。「海外への流出」は容器包装リサイクル法システムにもかかわる問題ですが、実態がなかなか掴みにくく、そのために市民にも問題が見えにくくなっています。年次報告書では、毎年「回収量」の計算の中に、貿易統計データを取り込むことで、より実態に近い回収量そしてリサイクル率を算出しようとしています。その結果、今年も84.9%という国際的にも高いレベルのリサイクル率が示されています。こうした実態を把握しようという努力が、年次報告書の形で一般に示される意義は大きいと思います。ただ、回収率、リサイクル率の計算式、表で用いられている数字の意味がそれぞれ異なるなど、まだまだ一読しただけでは理解しにくいところもあり、より一層の工夫を望みます。
見える化への一歩
「一生懸命分別しても、何になっているのかよく分からない」「本当にリサイクルされているの?」セミナーなどでよく出てくる質問です。リサイクルの「見える化」は、容器包装をめぐる昨年の大きなテーマでした。年次報告書では、具体的に最終製品としてどんな形になっているのか、写真を入れるなどより分かりやすく情報を提供してくれています。また、リサイクルにおける自治体の役割も重要であり、今年から自治体の「グリーン購入」の実態調査の情報が掲載されたことも注目されます。
リデュースへの取り組み
「リサイクルばかり進めても、リデュースが進まなければ循環型社会とはいえないのでは?」これもよく聞かれる意見です。「薄肉化」「軽量化」についても、今年は写真を加えるなど、よりイメージがつかみやすくなっています。一方で、どんなに技術を用いても「薄肉化」「軽量化」は、容器の持つべき機能との関係から限界があります。こうした点に触れながら、そこから協議会全体としてリデュースにこれからどう取り組んでいくか、という方向性をこれからの年次報告書で示されることも期待します。
今後の年次報告書に期待すること
今年の年次報告書の「市民にわかりやすい誌面づくり」からは、協議会が様々な取り組みについて市民に知ってもらいたいという気持ちがひしひしと伝わってきます。また、読み込んでいくとPETボトルの3Rを取り巻く様々な問題も見えてきます。こうした意義を有する年次報告書ですが、さらに進んで、協議会として何を一番大きな問題と捉え、どのように対応していきたいのか、という協議会の姿勢が見えてくればと思います。そうすれば、市民にとってより一層読み応えのある報告書になるでしょう。毎年いろいろ工夫がされている年次報告書、来年はどんな工夫を見せてもらえるのか楽しみにしています。
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