PETボトルリサイクル推進協議会 広報誌 RING Vol.37

巻頭インタビュー PETボトルリサイクルの現状と課題

寺園 淳 氏

寺園 淳 氏

国立研究開発法人 国立環境研究所資源循環・廃棄物研究センター副センター長

てらぞの あつし/博士(工学)。1995年京都大学大学院博士課程単位取得退学、同年京都大学環境保全センター助手、96年2月国立環境研究所社会環境システム部研究員、ドイツ・カールスルーエ大学独仏環境研究所客員研究員、2001年(独)国立環境研究所社会環境システム研究領域主任研究員、同所循環型社会形成推進・廃棄物研究センター主任研究員(併任)、06年同所循環型社会・廃棄物研究センター国際資源循環研究室 室長を経て、14年より現職(同年12月まで国 際資源循環研究室室長 兼務)。専門とする環境分野:資源循環

PET協 2011年に廃棄物資源循環学会誌に発表された「使用済みPETボトルの国内外マテリアルフローと中国におけるプラスチックリサイクル」では、輸出量や国内需要の構造をしっかり把握すること、中長期的な視点から国内・国際リサイクルのあり方を検討することが課題として指摘されていました。輸出量や国内需要の構造については、現在かなり把握できるようになり、リサイクルのあり方については引き続き検討している状況です。
 本日はその論文の著者でもありました、寺園副センター長にお話を伺います。

寺園 実は今年になってPETボトルについて話をする機会があって、私もいろいろと関わっていたのを思い出しながら、昔のことを調べ直したところです。PETボトルが食品衛生法で清涼飲料の容器として認められた当初は、飲料メーカーが自主規制を作って、1リットル以上の大型ボトルだけが販売されていました。しばらくはそれでうまくいっていましたが、海外から小型のPETボトルが入ってきて、国内でも自主規制が解除され、容器包装リサイクル法(以下 容リ法)が始まった。あまりいい言葉ではないかもしれませんが、そこから消費量が増えて大量リサイクルの時代になったように思います。
 2000 年前後はPETボトルのリサイクルというと繊維用途が多かったですね。それから状況が変わり今はボトル用途が増加してきて、繊維用途は減ってきたけれど長繊維でも需要はある。あとは卵パックや食品トレイなどのシート用途ですか。

PET協 シートは昔からありましたが、現在はヨーロッパをはじめ世界的にPETトレイの需要が増えてきています。日本ではPETトレイに10 万トン程度のリサイクル材が使われており、この比率もどんどん高くなっています。

寺園 なるほど。PET 樹脂はボトルだけではなく繊維やシートでも使用され、トレイのようにもともと他の樹脂だった用途でもPET樹脂の需要が増えてきている。そうすると、ヨーロッパの方では、プラスチック批判の真正面にPET 樹脂がきているわけですね。
 ここ1年ぐらいの間に、海洋プラスチック問題が主にヨーロッパを中心に広がってきて、中国の輸入制限もありました。我々にとっては、この話題自体が黒船といいますか、ちょっと意表を突かれたところから来たというのが正直なところです。国内では中央環境審議会にプラスチック資源循環戦略小委員会が設置されたことで、センター内でもよく議論しています。
 一般論として我々が考えているプラスチックの一番期待できるリサイクル(リカバリー)は、やはりどうしてもサーマルになってしまいます。日本では公衆衛生の向上や適正処理のためにごみを燃やして、熱や電気でエネルギーを回収する方法を主としてきました。結局、プラスチックも一緒に焼却炉に入れてエネルギーを回収するというのは、しばらくは仕方がないだろうという考えはいまだに強いです。ですが私は、違う道も考えるべきだと思っています。まだそうした議論がしっかりできているわけではないので、していかなければいけないのでしょう。

[聞き手]PETボトルリサイクル推進協議会専務理事 秋野 卓也

[聞き手]
PETボトルリサイクル推進協議会
専務理事 秋野 卓也

PETボトルは他のプラスチックとは違うので、しっかり啓発してさらに回収を

PET協 PETボトルのリサイクルは、物質循環という面ではプラスチックの中でも優等生だと自負しています。今後もさらにしっかり回収していくという方向性でよいと思われますか。

寺園 PETボトルは便利さゆえにこれだけ普及して、プラスチックの中心になりつつありますが、プラスチックの代表選手でもあり、違っているところもあります。PETボトルは他のプラスチックよりもリサイクルしやすい。ですからプラスチック全体の話とはまた別で、焼却炉には入れないほうがいいですし、回収の道を進むべきだと思います。消費者にも、“PETボトル”と“その他プラ”という形で、理解されているのではないでしょうか。
 PETボトルは「こういう回収をするから、買ったらこっちに持ってきてください」というのを、消費者に向けてしっかり伝えていかなければいけないと思います。そのときに、回収したPETボトルはリサイクルされて、もう一回ボトルにもなるし、シートや繊維にもなるという話をするべきです。自販機のところで回収したPETボトルはどうなのかというときにも、メカニカルリサイクルもあるし、もし海外へ輸出されているのだったらそれも追いかけて、こういうサプライチェーンですという話もするべきでしょう。
 消費者からすると、市町村の回収に出すか自販機のところで出すかで、出す際の手間はなぜか違う、だけど物としては同じものがリサイクルされている。ちょっと複雑ですね。一般消費者からだけではなく、所内でも質問を受けたことがあります。

寺園 淳 氏

PET協 PETボトルリサイクル推進協議会は、当初、容リ法の範疇で市町村回収を対象に考えていました。ただ、日本では容リ法と廃棄物処理法が並立し、PETボトルの場合は自治体ルートの回収と事業系の回収が50%ずつという極端な状況です。それは世界的に見ても日本だけです。ですから、循環型社会を目指すなかで、排出者責任を果たしながらPETボトルを合理的に処理していくにはどうすべきかを、事業系も含めて考えるようになってきています。

寺園 材料としてのPETボトルをどう考えるかという話だと、事業系も一緒に捉えるのはいいことだと思うのですが、どうしても法律の建付けは、責任や費用負担の話になってしまう。容リ法は逆有償を想定して頑強につくられているから、中国で輸入規制があってこれまで売れていたものが逆有償になっても、日本では対応できていると考えます。PETボトルは中国行きがとまったとしても有償で維持できるということであれば、容リ法の対象から外れるのも一案と考えられるでしょう。ただし、離島など地域によって逆有償のところはあるし、事業系も必ずしも有償でずっとカバーできるとは限らないということを考えると、その二面性は、まだしばらくキープしていたほうがセーフティネットとしてはいいのでしょうか。

PET協 セーフティネットとしてそれでいいと考えています。PETボトルの製造・利用事業者という大きな責任で考えたら、仰るとおり本来は統合していき、できるだけ一本化して単純化した方がメリットも大きい。そのためにもフローはきちんと把握しなければなりません。事業系回収の部分は事業者負担で処理していますが、行先が捕捉しきれない部分も少しあって、我々もその精査に取り組もうとしているところです。

寺園 日本のPETボトルの場合、リサイクル率が85%を維持しているというのは、他国に比べれば高い目標を立てて実績も上げられていて、良いと思います。
 人間社会が環境に対してどういう影響を与えてしまっているかを考えるときには、やはり人間社会のシステムの外へ出た量を考えておかなくてはいけません。リサイクル率ではなく回収率を上げていこうというのは、回収されない部分、不法投棄などのどこへ行ってしまっているのか分からない量を減らそうということでもあります。毎年調査するのは大変かもしれませんが、未捕捉のPETボトルのうち、ごみとして出されている分がどのくらいあって、不法投棄されている分、災害で川や海に流れてしまう分がどのくらいあるのか。そうした人間社会のシステムの外へ出てしまっている量をこれぐらい減らす努力をしていますという説明があっても良いと考えています。

PET協 PETボトルは散乱ごみとして目立ちますし、海洋ごみの問題としても問われていますので、そこは今後もっと詳細に把握していきたいと考えています。

寺園 海洋ごみの問題は、倫理的・道義的な面を含めて、多様な問題が重なり合っていると思います。散乱しているプラスチックがマイクロ化していく話もあれば、マイクロビーズのようなもともと小さいプラスチックの方が対応は難しいのではないかとも思われます。あるいは、マイクロプラスチックに化学物質が吸着したものを魚が取り込むと、プラスチックそのものよりも化学物質による影響のほうが大きいという話も出ています。さらに、マイクロ化したプラスチックは生活系全体の中にあるので、海だけでなく陸地においても、それが化学物質の取り込みを含めて今どういう作用をしているのかは、まだ不明な部分が大きいです。いろいろな切り口があって評価が難しいです。
 散乱ごみについては、減らそうとして減る部分もありますが、ゼロにするのは難しいでしょう。ゼロにできないのであれば拾っていくしかないですし、所定の回収ルート以外に捨てないPRとあわせて続けるしかないでしょうね。

寺園 淳 氏

PET協 散乱ごみの量が確実に減っているというデータがたくさん出てくれば、将来もっと減らしていけるという期待感も持てます。そういう意味で、事業者が統計データの把握や情報公開をしっかりやっていくと、最終的には、消費者にもきちんと分別をしてもらいたいという話にもなってきます。

寺園 PETボトルは便利で良い商品なので、それを享受するのは構わないですが、分別して出すまでがPETボトルの使い方ですと、消費者にしっかり啓発して学んでもらわなければなりません。良いとこ取りして便利さだけ享受しないで、それぐらいの覚悟をもって使ってくださいと。

キャップ、ラベルの分別は、日本の大事なガラパゴス文化

寺園 それからもう一つ考えていただきたいのは、キャップとラベルのリサイクルについてです。PETボトルと言うからにはキャップ、ラベルも含めてボトルなので、燃やすごみに入れている自治体もあるし、分別回収している自治体でもリサイクルはできているのかという問題もある。キャップやラベルの材質は、PET 素材にはならないのでしょうか。

PET協 キャップとボトルの材質が同じ固さだとうまく密封ができないので、同じPET 素材でボトルより柔らかいキャップを作るという難しい問題になります。海外では着色ボトルもありますが、リサイクル材の品質を高く保つために日本では業界の自主設計ガイドラインで着色ボトルを禁止し、透明なボトルしか使わないようにしています。また、ラベルはすでにPET 素材のものがありますが、印刷されているので、同じ材質でもボトルと一緒にリサイクルはできないのです。

寺園 だからキャップ、ラベルは最初に取り除いているのですね。自治体で回収されるものに限らず、自販機横の回収ボックスに入れる場合であっても、回収後に事業者が分別するよりは、最初から消費者に分別して出してもらった方が本当はいいわけですね。

PET協 その通りです。化学工学的にみても、原料の純度は高い方が良いに決まっていますから。キャップ、ラベルの分別は日本だけのガラパゴス文化ではありますが、リサイクルのことを考えると非常に大事な部分です。

[聞き手] PETボトルリサイクル推進協議会 専務理事 宮澤 哲夫

[聞き手]
PETボトルリサイクル推進協議会
顧問 宮澤 哲夫

寺園 ガラパゴス文化の良さと問題とを両方認識していく必要がありますね。指定PETボトルの自主設計ガイドラインも、そうした良さのひとつだと思います。ですから、インバウンドの観光客に対しても、こうやってキャップやラベルをはずして出すのだと知ってもらうこと。そして海外に対して、プラスチックの問題について指摘されたとしても、日本ではこういうPETボトルの使い方をしているのだと誇りを持って言っていくこと。そのために、データをいつでも出せるようにして、問題点や今後の展望についてもきちんと説明できるようにしていくことが大切だと思います。

PET協 本日はまことにありがとうございました。

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