PETボトルリサイクル推進協議会 広報誌 RING Vol.35

巻頭インタビュー 資源循環とPETボトルリサイクルの今後

吉岡 敏明 氏

吉岡 敏明 氏

東北大学 大学院環境科学研究科 研究科長

よしおか としあき/宮城県出身。1988年東北大学工学部卒業、90年東北大学工学研究科卒業、工学博士。2005年より東北大学大学院環境科学研究科教授、14年より現職。
専門はリサイクル工学、環境関連化学、無機化学。2014年、プラスチック廃棄物の化学資材への再資源化に関する研究で、文部科学大臣表彰(科学技術賞)受賞。
廃棄物資源循環学会副会長。東日本大震災後には「災害廃棄物対策・復興タスクチーム」幹事として、仙台市とともにリサイクルの観点を取り入れたがれき処理に取り組んだ。

はじめに、PETボトルのリサイクルについては、どのように感じていらっしゃいますか。

 プラスチックというものは非常に種類が多くて、それを全て一括りにしてプラスチックと呼んでいます。ただ、PETボトルは他のプラスチックとは異なる位置づけなので、リサイクルの仕方が大きく違いますね。一般消費者も、PETといえばボトルというイメージで、プラスチックとは違うものと受け止めていると思います。
 PETボトルの分別収集は、日本国内ではもうかなり市民に根付いていますよね。市民が分別をするためのきっかけとなったもの、市民に分別という意識づけをしてきたものは、PETボトルなのではないでしょうか。

 国内でリサイクルされるPETボトルの行き先としては、シート類や繊維などのカスケードリサイクルと、ボトルtoボトルの水平リサイクルがあります。カスケードリサイクルでは、融合素材など、新しい有望な技術が少しずつ出てきています。ボトルtoボトルでは、昔からのケミカルリサイクルに加えて、コストもエネルギーも低いメカニカルリサイクルがずいぶん増えてきました。

 原料に戻すということを考えると、PETというのは非常にリサイクルしやすい特性を持った素材です。あとは、製品を作る原料(ポリマー)と、モノマーなどの化学原料とがあるので、どこまで戻すかですね。
 水平リサイクルが一番いいという意見もありますが、リサイクルで何が優先されるかというのは、あまり決めるべきではないと考えています。もちろん、ボトルtoボトルで事業として利益が出るのであれば、展開していけばいいと思います。ですが、ボトルtoボトルが一番のプライオリティだということになってしまうと、別の形でもリサイクルできるのに、そちらを抑えることになってしまいます。
 やはり今後考えていかなければならないのは、金属など他の素材のリサイクルも含めて、静脈と動脈をきちんとコネクションすること。いつまでも補助金ベースで動いていては、リサイクルは静脈産業のままです。リサイクル原料が本当に資源として有効なのであれば、廃棄物という意識から脱却して、静脈・動脈という枠が自然となくなってしまうのがいいと思います。
 そういう意味では、色々なかたちでリサイクルをしたいという事業者がいるのであれば、マテリアルでもケミカルでも自由にやってもらうのがあるべき姿でしょうね。大元の原料まで戻した方がマーケットが広がる場合もありますから、多様なリサイクルの道も閉ざす必要はないと思っています。

廃プラスチックから化学原料を回収する方法を研究されている観点からは、リサイクルの今後についてどのように考えておられますか。

 まだ夢の話ではありますが、カスケードしないリサイクルのマーケットというものを掘り起こせると、自治体に任せなくても資源物を回収することが可能になるのではないかと思っています。
 たとえばプリペイドカードは、PETがベースになっています。触媒を加えてPETの部分を化学分解すると、残渣として酸化チタンと磁性材料が混ざったものが残る。このように、プラスチックの部分を何かに転換したときに残るものが金属だというスタンスだと、細かい分別などはいらなくなります。プラスチックは分別が困難だから燃やしてしまうということではなくて、もっと原料として使えるような処理の仕方があるということです。さらに静脈と動脈のコネクションという意味では、このリサイクルのシステムは酸化チタンを作るプロセスでそのまま使えるうえ、鉱石から酸化チタンを抽出するよりも環境負荷は小さいのです。そういうことも考えていかなければなりません。
 またポリ塩化ビニル(以下PVC)の場合、リサイクルの際に問題とされるのが塩素ですが、その塩素の一部を化学反応で別の成分に変えてやります。すると、PVCの機能をほぼ維持したまま、その成分の機能を付与した特性が出るんですよ。不要になったものに少し味付けをすることで、たとえば抗菌性の高い水道管のような、高い付加価値を持ったリサイクル製品を作ることができるわけです。カスケードだけではなく、このようなアップグレードのリサイクルというのも将来は考えていかなければいけないでしょう。
 そうした方向性がマーケットとして出てきて、リサイクルの分野に有機合成化学の専門家が入ってくるようになったらいいですね。いかに歩留まりを良くし生産効率を上げられるかということは、製造メーカーであれば基本的にやっています。加工メーカーだけがリサイクルの技術開発をするのではなくて、そうした動脈産業の人たちにも、重い腰を上げてもっとリサイクルに関与してもらいたいと思います。

先生は、これまでのリサイクル方法のデメリットのひとつとして、リサイクル工場までの運搬コストを挙げておられます。地域循環型のリサイクルシステムの構築について、お考えをお聞かせください。

 ひとつの例として、プラスチックを各地域100km圏内の基幹産業工場などで熱利用すると、CO2がどれだけ削減されるかという話をしています。ただ、この方法を推奨しているというわけではありません。
 それぞれの地域にさまざまなリサイクルの事業者がたくさんいるわけですから、彼らを育てればいい。地域に根差した産業と結びついたリサイクルのシステムを考えて、事業性が出てくれば地域で人を雇用できますし、利益が出れば税金も地元に落ちます。事業として成り立たなければそれは駆逐されていくでしょうし、結果として優良で事業性のしっかりした企業が育っていくことになります。
 現在、PETボトルやプラスチックのリサイクルでは、市町村が一生懸命集めたものが、廃掃法や容リ法に基づいて動いています。あくまで廃棄物として見ているからです。そうではなくて、何か新しいものを作り出すための原料という位置づけが確立できれば、市町村に任せなくても事業者が自分たちで集めるようになるのではないでしょうか。あるいは、事業者が市町村に対価を支払って収集を依頼するかたちになれば、市町村もしっかりと集めることができます。

PETボトルのリサイクル製品のひとつに、農業用シートがあります。たとえば、各地の農業団体が、市町村で集めたPETボトルを原料に農業用シートを作るようになれば、遠くのリサイクル工場まで運ぶ必要はなくなります。出口が重要ということですね。

 そうです。出口がしっかりしていなければいけません。そちら側から、現在のやり方を駆逐するような産業を興さなければならないだろうと思っています。
 トランステクノロジーと言っているのですが、別の分野の技術を上手く活かしたり、そこに新しい技術を加えてもっと高い性能を出すということを、動脈の産業ではみんなやっています。マーケットの動向や消費者の要求に対応しながら、技術やシステムの面で淘汰されつつ、先に進んでいるわけです。リサイクルの事業もそうならなければいけないのではないでしょうか。今ある技術でできるのか、それで利益がでるのか、というような考えに終始してしまうのは、違うだろうと思います。
 PETボトルリサイクルの初期の頃には、米糠を洗い落とすのと同じ原理でPET の表面を洗うとすごくきれいになるということで、PETフレークを洗浄するのに米を磨ぐ機械を導入していました。米に関する技術を、PET のリサイクルに応用してきているわけですね。それもまさしくトランステクノロジーだと思います。そうした思想が、いまリサイクルを進めましょうというところには足りないような気がしています。

それでは最後に、リサイクルが新たな段階に進んでいくために、一番必要なものは何だと思われますか?

 新しいコンセプトを作ることです。リサイクルというのが使い古された言葉になってしまって、“リサイクルなら昔からやっているじゃないか” とか“これからやる必要があるの?”と思われてしまうようでは問題です。ですから、どうやって新しいコンセプトとして皆さんに受け入れてもらうのか、それが今後の課題なのではないでしょうか。従来のような、“資源循環やリサイクルは良いことだ”というだけではなくて、もう少し違う形のコンセプトを作っていかないと、おそらく次のステージには進めないのではないかと思います。
 そのときのキーワードとなるのが、静脈と動脈を上手くコネクションする話や、アップグレードのリサイクルです。静脈だけに任せるのではなく、動脈側も一緒になって考えないとリサイクルは進まない。そういうスタンス、そこを結びつけるためのコンセプトが、必要なのだと思います。

[聞き手] PETボトルリサイクル推進協議会 専務理事 宮澤 哲夫

[聞き手]
PETボトルリサイクル推進協議会
専務理事 宮澤 哲夫

本日は大変有意義なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

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