PETボトルリサイクル推進協議会 広報誌 RING Vol.33

Interview PETボトルリサイクルの現状と課題

―はじめに、かねてから国の産業構造審議会・中央環境審議会などで進められている「容器包装リサイクル法」(以下「容リ法」という)見直しのための審議の展開について、先生が日頃からお感じになっておられる点をお聞かせ下さい。

石川  そうですね。公の審議会なるものはその社会的役割から考えて、いざ審議が始まれば皆で十分に議論を尽くすことが極めて重要です。関係する様々な立場の人々が一堂に会して存分に意見を交わして論点を深めていくというのが審議会本来の目的であり、本質的な価値であるはずです。ところが現実には、必要なディスカッションが十分に行われない場合が多いように思われます。開催中の合同審議会は昨年9月24日に開催されて以来開かれておらず、当初の予定から大幅に遅れています。とりまとめに向けての関係者間の合意形成が進んでいないようです。

 これは一つには参加者の数が多すぎて会合の場で議論を尽くせないことに大きな要因があると言えます。一人あたりの発言の時間が限られ、国全体のあるべき姿を念頭に置いてじっくり発言しようと思ってもそれだけの時間的余裕がなく、用意した資料をきちんと読んでもらう時間さえないといった事態もしばしば生じているのです。ましてや、お互いに意見を交わす時間など確保しようがないという場合が多いように思います。

石川 雅紀 氏

石川 雅紀(いしかわ まさのぶ)氏

神戸大学大学院経済学研究科 教授
特定非営利活動法人ごみじゃぱん 代表理事

1978年東京大学工学部化学工学科卒業、工学博士。東京水産大学食品工学科助教授を経て2003年より現職。2006年、廃棄物の発生抑制を目指すNPO法人ごみじゃぱんを設立、代表理事として、減装(へらそう)ショッピングを展開している。専門は、環境経済学、環境システム分析。
政府、自治体の審議会などで3R、廃棄物政策、LCAなどの専門家として活動。減装ショッピングはダイエーが近畿・中部70店舗で常時展開するところまで拡大し、2007年度グッドデザイン賞(新領域デザイン部門)、平成24年度3R推進功労者表彰内閣総理大臣賞、平成24年度こうべユース賞、低炭素杯2015環境大臣賞金賞(地域活動部門)を受賞した。

 もう一つは自治体の代表性の問題があると思います。現在の審議会では、個別自治体ではなく、自治体全体を代表して、責任有る発言がなされているのかと思います。事業者は、3R推進団体連絡会を立ち上げるなどして容リ制度への共通の理解を深め、容器包装リサイクル制度研究会のような関係者が一堂に会して徹底的に議論する場を設定しています。それに対し、市町村からの委員は、“我が市はこうだ、だから法律をこうして欲しい”といった自分の自治体の問題をうったえるばかりです。お話を聞くと、確かに軽視できない問題を抱えていて対応に苦労されていることは理解できます。しかし個別の問題を説明するだけであれば、委員として参加する必要は無く、ヒアリングの場で報告して頂くのが妥当でしょう。国の審議会の場では、他の委員と同じく、国全体を対象とする視座から、容リ法の見直しをどう考えていくかということについて意見を述べるようにして頂けるとありがたいと思うのです。

―その件で何かご提案頂ければ。

石川  例えば、全国知事会、指定都市会、全国市長会、町村会などがシンクタンクを使って専門家や学識経験者による自治体としての立場を理論的に研究し明確にする目的の研究会を立ち上げ、主張を理論化することが考えられますね。容リ法の在り方についても、そうした中で十分に検討を重ね、そしてその結果、関係者皆で目指すべき方向についての所信を審議会で述べるようにすれば、大いに説得力が増すと思います。

―その容リ法は日本独自の法律ですが、海外主要国は容器包装のリサイクルに関してどんな法制度を敷いていますか。

石川  ヨーロッパでは、EUが最近になってずいぶん政策転換してきているなと感じます。最近のEUのいわゆるリサイクルがらみの政策は、資源というものに対する観点がすごく重視されて資源政策と環境・廃棄物政策とが一体となったかたちで推進されている感じです。

 それに対して日本の環境政策は、資源(goods)政策というよりも廃棄物(bads)政策の色合いが強く、廃棄物収集に力点が置かれ、廃棄物処理回避の手段として資源化するという考え方です。

 容リ法施行以降も、2005年以前は、PETボトルがせっかく集まっていても容リ協会の平均落札価格でみると事業者が負担しなければ引き取られない状況で、経済的な意味では廃棄物でした。その後、中国を中心としてプラスチックの需要が高まり、国際的に樹脂価格が高騰しました。これに伴って、日本国内の再生PET素材の価格も上昇し、かつ、容リ制度の普及で再生PET樹脂の国内市場が確立し、日本でも欧米同様に使用済みPETボトルも有価物として評価され再利用されるようになりました。PETボトルを資源として再利用するのは当然と考えています。

―余談ですが、我が国の消費者の高品質要求に対して清涼飲料メーカーは、日々その要求に応えようと努力しています。

石川  そのようですね。PETボトルの品質確保には各社とも大変な努力を積み重ねてこられたと思います。なにせ、日本の消費者の品質要求は海外各国と比べると段違いに厳しいですからね。

 以前に、ある容器メーカーさんの製造工場を見学させてもらった時の話ですが、あるラインからいくつかの製品がアウト品としてはじき出されていたのです。そこで、担当者に“不良品なのですか”と尋ねると“印刷ずれです。少しだけ印刷ずれが生じたものがあるのです”という答えが返ってきました。しかし私が懸命に見ても判らない。案内役の技術畑の役員さんも“いやあ、実は私にもよく判りません”とおっしゃる。けれど、担当の専門家にすれば機能や品質に直接関わりがなくとも、供給側からみて少しでも心配な点があればただちに「アウト」の措置を取るということなのですね。驚くと同時に感心させられましたね。他の企業の工場でも同じような体験を何度かしました。

 そういうこだわりがないと、傑出した高品質の製品が出てこないともいえますし、日本特有のごみの発生理由ともいえます。これはコスト増を招きますから、非常に品質が高いけれども、コストも高く、そのままでは世界市場で競争力が劣るという、いわゆるガラパゴス製品と通底するものがあります。

左から石川 雅紀 氏/専務理事 宮澤 哲夫/顧問 大平 惇

―続いて、3Rについてもご意見をお聞きしたいと思います。私たちは3Rに関する自主行動計画にも引き続き積極的に取り組んでいく考えです。ついては、中身製品の保護と安全・安心の確保に併せて、使用資源や使用エネルギーの節約のためのリデュースにもこれまで同様意欲的に挑戦していきたいと考えています。
ただし、リデュースには物理的な限界もございます。それにもかかわらず、科学的な根拠なしにもっともっと減量化せよと言われても困りますが、この点についての先生のご判断はいかがですか。

石川  何であれ、ものには限界があるということは誰でも理解できると思います。ただし、技術上の限界がどこにあるのかについては、ものを作っている人でないと技術的知識がないためなかなか判断できません。

 技術的知識を持っている人でも、実は、技術的限界を絶対的な基準として示す事はできません。もともと技術は進歩するものなので、技術陣が“限界があります”と主張しても、一般の人たちから“だけど技術は進歩するものなのでしょう”と言われると答えに窮することになります。私も、技術者の方や事業部の人と話をしていて“先生、それはできません。技術的に限界です”と言われたことが何度かありました。でも、3年なり5年なり経つときちんとクリアしているケースがよくあるんですね。ですから私は限界と聞くと、“それは熱力学的限界のことをおっしゃっているのですか”と聞きます。カルノー効率などの熱力学的限界はあるのです。それを言うのなら私は納得します。そうではなくて、事業部の方とかエンジニアの方々の中には、マーケットが求めるコストを想定して、そのコストではできませんという意味でおっしゃる人が多いように思われます。また、いますぐ作れ、明日作れと言われてもそれはできないという意味でおっしゃりたい場合も多いかと思います。どのくらいのコストをかけて、どのくらいの期間で技術開発するかは、個々の企業が決めていることですから、結局、「技術的限界」は個々の企業が個々の事情で決めているということになります。しかし、「技術的限界」といわれる場合の多くは、個々の企業の意思とも責任とも関係なく、「科学的」に限界が決まっており、その限界は、技術的知識を有する側は知っているが、知識の無い一般消費者は理解できないという文脈です。これで一般消費者に納得しろというのは無理でしょうし、納得が得られない原因を一般消費者の知識の欠如に帰着させるのは間違いです。

 私が感心したのは薄肉ボトルが登場した時、リデュースを環境対応という視点で消費者が受け入れたことです。供給側が消費者に働きかけることにより、日本の高品質な要求は下げる可能性があります。事業者には誠実に対応して頂きたいと思います。

―PETボトルのリユースについて、先生のご意見をお聞きかせ下さい。

石川  リユースボトルの持つ衛生上の安全性について世間がどの程度のレベルまで許容するか、つまり世間にどこまで“安心感”を与えられるかが一つのポイントですね。一般に衛生安全性のレベルを客観的に数字で表わすことはできます。けれど、社会がそれをどう評価するかは容易に判断できません。リユースボトルの衛生安全性についても同じことが言えます。しかも特に最近は、どんな商品であれ徹底的に安全性が確保されていることがはっきりしていなければ世間が受け入れてくれません。おまけに、いまは多くのメディアを通して様々な情報があっという間に世間に広がっていき、また面白がる人もいます。ですから供給者サイドは、以前に比べてはるかに大きなリスクを抱えていくことになるはずです。コストもすごくかかるのではないかと想像します。さらに、ワンウェイボトルの軽量化がかなり進んでいますから、環境負荷の側面でもリユースの方が有利である条件はますます厳しくなっています。また、現状ではリユースを普及させるためには新規に回収システム、洗びん施設など巨額の設備投資が必要ですし、リユースが成立する地理的範囲はかなり限られますから、充填工場の配置まで変えなければなりません。

石川 雅紀 氏 以上の点を踏まえて私の結論を申し上げれば、“何が何でもPETボトルもリユースすべし”という主張は間違いだと思いますね。リユースが好ましいのは限定的な場合でしょう。リサイクルして資源の有効利用を図ることが主であると考える方が合理的と言えます。

 

―有効利用と言えば、他の廃棄物の場合はエネルギー回収が有効だという話をよく耳にします。使用済みPETボトルの場合はいかがでしょうか。

石川  PETボトルは他のプラスチックと比較して発熱量が約半分と低いので、熱回収を目指す意味がありません。だいいち、しっか りマテリアルリサイクルやケミカルリサイクルができるのですから、何も効果のない熱回収に回す必要がないではありませんか。

 同じプラスチックでも、複合構成のフィルム包装の様に、材料リサイクルに適さないものについては、資源効率やエネルギー効率が期待できる、セメントキルンやコークス炉などの産業用熱源に活用すべきと思います。

―私たちの第三次自主行動計画について石川先生から何かご提案頂けることはありませんか。

石川  自主行動計画の目標値については、片方だけ(事業者)が技術を持っており、相手(消費者など)は技術を持っていなのだから、事業者の都合の良い目標値を設定しているのではないかと思われ勝ちです。皮肉なことに、どんな目標を設定しても相手は信用してくれないのではないかと思います。

 以前にPETボトル関係者の間から“自主行動で掲げる数値目標は技術的知見の乏しい外部の人たちの判断で決められたくはない”という声を聴いたことがあります。さきほどの話ではありませんが、全ての物には時間的制約など様々な要因による限界というものがあります。しかし、一般消費者を含めた全ての人々にそうした点を完全に理解してもらうのは容易でありません。したがって、そうした中でPETボトル関係者が“様々な限界の存在をご存じない第三者に安直に目標値を決めてもらいたくない”とおっしゃる気持ちは理解できます。まして、自主行動計画なのですから、自分たちで決めれば良いと思います。ただし、決めた計画の社会的評価は別問題です。

 そこで、手前勝手のようで恐縮ながらご紹介したいのは、私たちの「特定非営利活動法人ごみじゃぱん」が普及をはかっている<減装(へらそう)ショッピング方式>の具体的な実践方法である≪トップランナー方式≫です。これは売られているものすべてにランクをつけて、“こんな優れたものもあるのですよ”と一般の人々にお示しすることで全体の底上げをはかるという手法なのです。ポイントは、「技術的可能性」ではなく、市場に存在するかどうかを問題にすることです。こうした方法は、お話の自主行動計画の目標設定の場合にも適用できるのではないでしょうか。

―本日は貴重なお話を頂きどうもありがとうございました。

RING編集委員[オブザーバー:横尾(左端)、末永(右端から2人目)、田中(右端)]を含めて全員での撮影

RING編集委員[オブザーバー:横尾(左端)、末永(右端から2人目)、田中(右端)]を含めて全員での撮影

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