RING PETBOTTLE RECYCLING

Interview PETボトルリサイクルの現状と課題

―PETボトルリサイクルのさらなる発展を図るための今後の対応について、さまざまなご意見をいただきたく思っております。
 はじめに、PETボトルリサイクルの全体について、何かお感じになっていることがありますでしょうか。

杉山  さまざまなリサイクルの中で、PETボトルは非常に上手くいっている優等生ですが、多様化しつつある回収ルートそれぞれにおいての集め方の部分で、もう少し工夫できるのではないでしょうか。
 多くの自治体では少しでも市民の方が出しやすい仕組みを作ることに重きを置いています。しかし、たくさんお金をかけてでもとにかく集めればいいという時代ではないですし、どうやって安く効率的に集めていくかということに、もっと知恵を出していく必要があると思います。効率化のためには回収ルートを集中させなければならないと思いますし、古紙類では、すでに回収ルートを絞る施策をとっている自治体もあります。

 容器包装リサイクル法の枠組みでは、自治体が収集と中間処理を行い、それを事業者が再商品化しています。しかし、自治体側からは収集の部分についても事業者に関わってもらいたいという要望もあります。

写真:杉山 涼子(すぎやま りょうこ)氏

杉山 涼子(すぎやま りょうこ)氏

常葉大学 社会環境学部教授

環境省中央環境審議会臨時委員、経済産業省産業構造審議会環境部会廃棄物・リサイクル小委員会委員、国土交通省社会資本整備審議会・交通政策審議会臨時委員、国土交通省公共工事の環境負荷低減施策推進委員会委員、農林水産省食料・農業・農村政策審議会専門委員、などに従事。1978年 大阪大学工学部環境工学科卒業。1981年 米国インディアナ大学大学院修士課程修了(生態学専攻)。1987年 東京工業大学大学院博士後期課程単位取得退学(社会工学専攻)。廃棄物コンサルタント会社を経て、1996年(株)杉山・栗原環境事務所設立。現在、取締役。2007年 富士常葉大学環境防災学部 准教授、2010年より現職。

PETボトルは、軽くて持ち運びしやすく、割れることもなく、汚れも比較的少ない、店頭回収にかなり馴染みやすい品目です。自治体によっては難しいところもあるようですが、もっと店頭回収で集めやすくする必要があるでしょう。ただし、自治体が回収をやめ、事業者に押し付けるということではなく、双方にとって無理のない仕組みを作るべきではないかと考えています。たとえば、自治体が現在行っている集積所ごとに回る分別収集だけでなく、店頭回収をしたPETボトルを自治体の車が定期的に回るという方法。その場合、お店の方にご協力いただき、双方の連携が必要となります。どこかに押し付けて他の誰かが楽をするということではなく、店頭回収ということをひとつのキーワードに、高品質で効率的な回収の新たな協力の仕方があるのではないかと思っています。
 また、集団回収(町会・自治会などの地域団体と資源回収業者が実施する、資源物の回収)でPETボトルを集められないかという声が出ています。コストを抑えるには住民の方々にもご協力いただく流れが必要で、便利で出しやすいというだけでは、持続可能ではないと感じています。
 しかしながら、店頭回収や集団回収は、せっかくその可能性があるのに、法律の解釈が障害となっていることは非常に残念です。PETボトルが資源物として位置づけられ、店頭回収や集団回収で問題なく回収できるような法的バックアップが必要だと思います。

―PETボトルの分別収集において、課題と感じられていることはありますか。

杉山  PETボトルは、今やリサイクルの象徴と言ってもいい存在だと思います。“洗って、キャップとラベルを取りはずす”ということがとても分かりやすいので、市民の方に定着しつつありますね。今後も市民の方に継続して伝えることで、しっかり身につけてもらうことが必要だと思います。
 しかし、細かいルールは自治体によって異なるところもあると聞いています。引っ越しなどで移動する方も多くいらっしゃるので、自治体ごとの違いによって「どうすればいいの?」と迷われたり、「リサイクルって面倒くさい」と思われてしまうことが懸念されます。こうしたことを防ぐために、全国的に足並みを揃え、みんなが知っているルールにしていくことが大事なのではないでしょうか。

―PETボトルとエネルギー回収との関係について先生のご意見はいかがでしょうか。

杉山  PETは樹脂としての発熱量が他の樹脂に比べて低く、焼却をして熱エネルギー回収とするメリットは通常のプラスチックより少ないです。PETボトルは分別してリサイクルすることが市民の方々の中で当たり前となっている現状で、わざわざ燃やすということのメリットは考えづらいと思います。PETボトルは、マテリアルリサイクルが基本だと思います。

―現在のリサイクルをより推進していくためには、どのような広報啓発が必要なのでしょうか。

杉山  以前であれば、自治体が「リサイクルしています」と言えば、市民の方々も納得されていました。しかし、現在では「リサイクルしたことでどのような効果がありましたか?本当に環境負荷が減っていますか?」という問い合わせが自治体に寄せられるケースが多くなっているようです。このような状況の中では、「リサイクルをしてください」とだけ伝えるのではなく、「こういう効果があるからこそ、皆さんの協力が必要です」というメッセージが必要となってきているのだと思います。
 市民の方の中にはデータに詳しい方も多く、PETボトルをリサイクルすることによる環境負荷削減効果を「見える化」し、分かりやすく、適切に伝えることで、よりリサイクルへの理解が深まるのではないかと思います。

―どのようなチャネルを使って市民の方にお伝えするのがいいでしょうか。

杉山  ひとつは、自治体ごとに名称は違いますがそれぞれの自治体ではごみの「分別冊子」を作っています。さまざまな品目について「どう分別するか」「いつ出せばよいか」が調べられる冊子です。市民の方々にきちんと分別してもらおうと各自治体が作っていますので、こういったメディアを使ってPRしていってはどうでしょうか。たとえば、その分別冊子の中で、PETボトルをリサイクルすると1本当たりこれだけのCO2排出の削減効果があり、全体として見るとこのような効果がありますという具体的なデータを掲載することで、市民の方の目に止まりやすくなり、分かりやすく伝えられると思います。このように自治体との協働でPR・啓発手段を考えていくことも効果的ではないかと思います。
 もうひとつは、地域ごとに活躍していらっしゃるリーダー的な方々の口コミも有効です。「ポスターで見た」という情報より、オピニオンリーダー的な方の発言のほうが、「あの人が言うなら確かにそうなのだろう」という影響力があります。ですから、まずはそういった地域のリーダー的な方に情報を発信し、その方々を通じて市民の皆さんに知っていただくということも効果的だと思います。

―2012年にスタートした、PETボトルリサイクルの新たな取り組みである高度化したマテリアルリサイクルによる「ボトルtoボトル(以下B to B)」については、どのようにお感じになっていますか。

杉山  基本的に、水平リサイクルであるB to Bは望ましいことだと思います。あとは水平リサイクルというものに、PETという素材がどれだけ向いているかいうことが大きな判断材料となるでしょう。
 技術的な開発という大きな意義、先々の安定的な再生利用市場など、PETボトルのリサイクルを取り巻くさまざまな状況を冷静に見つめ、何が求められているのかをきちんと見極めなければなりません。その上で、コスト、環境負荷削減効果、回収したPETボトルの需要、資源の国内循環の必要性などを踏まえて、多面的かつ継続的な視点から考えて結論を出していく必要があると考えます。

―使用済みのPETボトルの自治体による独自処理について、どのように思われますか。

杉山  先にも申し上げたように私自身も含め、PETボトルは審議会の関係者などからリサイクルの優等生と受け止められています。そのためにPETボトルはうまくいっているのでほかに困っている方を先にということで、この現状が表面化していないように感じます。自治体による独自処理は、今の法律の枠組みですとダメだとも言えません。
 今から十数年前には自治体が収集したPETボトルの引き取り手がなく、自治体のストックヤードに山積みされたことが社会問題となったことがありました。
 事業者は法的に再商品化の義務を負うので、その量は少なければ少ないほどいいという考えもあり得ますが、リサイクルシステムを今後ともより安定させるという本来の法的視点で言えば、自治体収集のすべてのリサイクルの義務を果たせるようにすべきだと思います。また、この現状が新たな問題であるという認識も必要でしょう。
 今後の対応ということでまとめますと、PETボトルのリサイクルについて、今後とも事業者、業界の方々に主体的な関わりをしていただく必要があると思いますが、日本全体のありかたをどうするのかという視点で見ていかないといけないと思っています。私の立場から見えていることと、別の立場から見えているものは違っており、いろいろな観点で見ていかないと、現在の正確な状況はなかなか捉えきれないと思います。
 そして、それをさまざまな立場の視点から議論していかなければいけません。使用済みPETボトルを分別排出する市民側からするとどう感じられるのか、それを集める自治体側は、そしてリサイクラーからはどうなのかといった具合にです。今までは審議会でも「PETボトルは上手くいっているので、このままでいいのではないか」という傾向がありましたが、PETボトルはリサイクルが進んでいるからこそ見えてきた新たな課題があります。やはり、容器包装とひとくくりにするのではなく、それぞれの品目ごとに議論していく必要があると感じています。

―本日は貴重なご意見の数々、ありがとうございました。

写真左:専務理事 宮澤 哲夫/写真右:顧問 近藤 方人
写真:常葉大学 社会環境学部教授 杉山 涼子氏

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