RING PETBOTTLE RECYCLING

田中 勝氏 インタビュー

持続可能な資源循環型社会形成に向けて

近藤:本日は、PETボトルリサイクルについて先生のご意見をお伺いしたいと思います。よろしくお願いいたします。

今、PETボトルはリサイクルの優等生ですね

田中:PETボトルが使い捨てプラスチック商品のシンボル的な見られ方を市民からされているところがありました。そのPETボトルが、今はリサイクルの優等生ですね。品質がいい。中身もミネラルウォーターなどの飲料なので、その他のプラに比べて中身の付着が少ない。市民がそれを分別保管しておける。場所によっては小売店でも回収する。リサイクル率も世界TOPクラス。そういう意味で素晴らしいリサイクルシステムを作り上げていると思います。その点では敬意を表したいと思います。
そういうリサイクルに係わることで、市民が、ごみの問題に直に触れられる、そして資源保全のために自分でできることを考えるチャンスを与えている部分があるかなと思います。
私が、いろいろなところで「プラスチックは燃やして」と話すときに「PETとトレイは別です」と言わないと、市民の賛同を得られません。
オランダアムステルダムのごみ発電施設の担当者に、「プラスチックの分別は行っていないのか?」と聞くと、「これだけ立派なごみ発電施設があるので、物質回収はしない」と言われました。ですから、ごみ発電施設があれば中途半端なことはしないで、カロリーがあるものは燃料として使う、というのがアメリカ、ヨーロッパの考え方ですね。

近藤:なぜ日本と欧米では考え方が異なるのでしょうか。

田中:やはり、目に見える結果、「これを回収したらこれになる」と言ったほうがわかりやすい。日本では埋立や、燃やしたりしないでリサイクル、という教育をしてきましたよね。だから、燃やすことはいけないことだと教えられている。

写真:田中 勝 氏

近藤:なるほど、そうかも知れませんね。

田中:また、環境負荷を減らそうと思うと、コストは上がりますよね。電気や薬品を使いますから。
コストは安く、資源は使わないように、環境負荷は小さくしましょう・・・というと、みんな「そうだ、そうだ」という。
資源消費が少ないとコストも少なくなるのはいいんですが、コストと環境負荷はトレードオフです。処理コストと、環境負荷をほどほどに・・・となってくると、最適な部分はどこなのか。“良い加減”のところを見つけないといけないと思います。
また、使用済みPETボトルの海外流出について言えば、小さい規模のリサイクルというのは効率が悪い。リサイクルも生産工場と同じように考えると、人件費の高い日本のリサイクルは費用がかかるから、お金のかからない中国にプラスチックがいくわけです。動脈だって、日本からアジアへどんどん移行しているのと同じです。それを、中国に行かないようにするには、海外と競争できるものにしていかないといけませんね。
リサイクルの事業者にはもっと頑張れといっています。技術開発を行い、経済的にも負けないように、中国に取られないように。そうしたグローバルスタンダードで生き残れるような企業に、リサイクルビジネスもなっていかないといけないのではないかなと思っています。

リサイクルの技術開発について

近藤:再利用品について、日本人は品質の高さを求めます。たとえば卵パックのような簡単な容器でも目標品質が高く、さまざまな技術開発がされていますし、自動車の内装材も、あの淡い色を出すには、再生材としての透明度の確保など、かなりの技術が必要です。それなりにコストはかかっていますが、この世界は、できればキープしていきたいところです。

田中:そういう日本の「より良いものを求める」努力の結果が技術開発につながったと思います。しかし、リサイクルでは「ほどほどで良い」という世界もありますね。
紙を例にとると、より白く、より薄く、より丈夫という技術向上がありますが、リサイクルの世界では品質はほどほどでいいから値段は安くして、という相談になるわけです。
「より良い」というのは、今の循環型社会では「ほどほど」で良いという場合もあるということです。その代わり資源保全になり環境負荷をもたらさないで製品が作れないのか。そういうことが求められている。製品の品質についても「何とか使えればいい」という程度で良いですね。

写真

各主体間の連携(市民、行政、事業者)それぞれの役割

近藤:ここで、PETボトルから少しそれるのですが、我々8素材を含めた取り組みの中で主体間連携という部分があります。市民・行政・事業者です。今後もこの考え方を進めていきたいと思っておりますが、その点についてはいかがでしょうか。

田中:それは非常にいいことですね。それがなかったら、なかなか理解されないで、誤解されたままという部分がありますよね。
ただ、心配は企業として「本当に社会にとって望ましいことはこういうことです」と、市民に正直に言える雰囲気があるのかどうかです。
まだ遠慮しているなら、社会的にはマイナスです。本当に社会にとって望ましいことを一緒に考えようという状況になっているかですね。

近藤:事業者のメッセージが、きちんと市民に届いているか。もう少し別のチャネルを持って、声なき市民に語りかける方法を必死に探さなければいけないという思いはあります。

田中:サイレントマジョリティーの考えを市民グループのリーダーにもぶつけて、リーダーと本音で話すことが必要ですね。リーダーの考えと彼らとの間にギャップがある場合があります。そのリーダーの顔色をうかがっていると、サイレントマジョリティーに見放される、ということもありますね。本当は企業が社会にいいと思うことを主張し推し進めるべきであると思います。

近藤:そうですね。私たちとしては、自主行動計画を作ってそれに基づいて行動してきましたが、その成果についてはどうお考えですか。

田中:相対的に見て、事業者が良く頑張っていると思います。特にリデュースの効果は評価されるべきだと思います。ごみの問題は出した人の責任ということは変わらないんですが、EPR(拡大生産者責任)という点で、作った側にも少し考えてもらおう。だから消費後の商品も引き取ってリサイクル。そうすることでもっと本気になってもらおうと。その結果、効果があったのでしょう。生産事業者の努力も、もうそろそろいいじゃないかという話になるかどうかですね。
引き取りやリサイクルを法律まで決めてやる必要があるのかどうか。アメリカは、自主的な取り組みが基本です。日本は容器包装リサイクル法のように法律で決める部分と、自主的な取り組みとがありますね。

近藤:そういうことで言えば事業者が“自主”でここまでやったということは、改めて評価を仰ぎたいところです。

容器包装リサイクル法の見直しについて

写真:[聞き手]近藤 方人

近藤:最後になりますが、今後の容器包装リサイクル法の見直しに向けてはどのようにお考えでしょうか。

田中:何回か議論しているわけですから、レビューをきちんと行ったらいいと思います。
それぞれの主体が自己評価をして、いいところは伸ばし、悪いところはチェンジする。初期の目的はある程度達成されていますよね。
容器包装にも、物質回収にふさわしいもの、エネルギー回収にふさわしいものがある。両方考えればすべて資源だと考えられます。
結局は、時代とともに市町村も変化して、事情に応じて適切な方法でやっていきましょうね、となるわけです。でも、それでは業界はどちらの方向に施策を持っていきたいのか、ということになるわけです。国も、いろいろな団体と協力して動かなければならないわけだし、反対されたものは制度や法律になりません。

近藤:私たちも、事業者として、もっと市民・行政と連携・協力ができるような方向へ進めていきたいと思います。 本日は貴重なご意見の数々、ありがとうございました。

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