平尾 雅彦 氏(ひらお まさひこ)
東京大学 先端科学技術研究センター シニアリサーチフェロー
1981年東京大学工学部化学工学科卒業、工学博士。日立製作所勤務を経て、1996年東京大学工学系研究科講師、2006年同教授。2023年より現職。専門は、ライフサイクルアセスメントを活用した環境配慮製品や生産プロセスの設計、プラスチックリサイクルシステムの評価と設計、消費者の環境配慮行動支援、持続可能な消費と生産政策。グリーン購入法特定調達品目検討委員会委員長、目黒区廃棄物減量等推進審議会会長、産業環境管理協会資源循環技術・システム表彰審査委員などを務める。日本LCA学会元会長、エコマーク元運営委員長、グリーン購入ネットワーク前会長、環境再生保全機構戦略的研究「アジア地域における持続可能な消費・生産パターン定着のための政策デザインと評価」(2016-2021)プロジェクトリーダー。
資源循環と気候変動抑止は、地球の持続可能性を達成し、維持するために世界共通の目標になっています。この達成のために産業の役割が大いに期待されています。今年度の年次報告書を拝見し、PETボトルが日本における資源循環の最先端を走っていることに揺るぎないことがよくわかりました。目標としている85%以上のリサイクル率を4年連続で達成していますし、若干の上下はあっても高いリサイクル率を10年以上維持しています。これは一般消費者が日常的に消費する商品としては、世界的にみても驚くべきレベルです。製造および流通事業者、消費者、リサイクル事業者、そして国や自治体、指定法人の連携が社会に定着していることの現れです。指定法人ルートの落札単価も昨年度に混乱がありましたが、今年度は落ち着きを示しており、経済システムとしても安定してきています。また、容器としての性能を考えると限界に近い軽量化も、大容量ボトルを中心とした技術開発で進展しており目を見張るものがあります。
安定しているリサイクル率の一方で、回収後の流れには変化が見られます。まず、回収されたPETボトルのうち海外輸出される量は大きく減少しました。輸入国での禁止措置の影響はありますが、国内で資源として活用する流れが定着してきたといえるでしょう。再生樹脂の用途にも変化が見られます。特に、ボトルtoボトルの水平リサイクルが29%と前年度から8.7ポイント増加し、顕著な進展を見せました。水平リサイクルのための設備新設も進んでいるとの報告もあり、ボトルtoボトルが目標とする50%に早期に達成できるものと思われます。再生材の用途全体を見ても、衣類や文具などの長期利用あるいはリサイクル可能な製品用途への流れが増加の傾向があり、逆に使用後は廃棄物となる使い切り製品や回収されにくい製品用途は全般に減少する傾向が見られます。このように、PETボトルにおいては、国内での資源循環の質的なレベルアップが進んでいるといえます。今後はリサイクル率に加えて、ボトルtoボトルを含めて、再生樹脂の次の用途の循環性までを含めた質的なレベルを示す指標の開発と報告が求められます。
このようなリサイクルによるCO2排出量削減効果をライフサイクルアセスメント(LCA)により定量的に評価し、報告していることは、気候変動抑止への貢献を示しており、高く評価される点です。しかしながら、出荷本数の増大に対してCO2排出量が増えていないという現状にとどまらず、カーボンニュートラルに向けて削減する方策を議論していただきたいと思います。そのためには、PETボトルの単純焼却がほとんどなくなっている現在、焼却を基準とした全体のCO2排出量削減量主張だけでは不十分です。リサイクル有りシステムでのCO2排出量をゼロにすることを議論できるLCAの実施を期待します。例えば、バイオマス資源への原料転換、循環流における再生可能エネルギー利用への転換、メカニカルとケミカルのリサイクル手法の相違と選択、カスケードリサイクルでの次の製品の特性などを考慮し、資源循環とカーボンニュートラルを同時に意識したLCAが考えられます。加えて、専門家を含む多くの関係者の議論に資するため、米国PET容器資源協会(NAPCOR)によるLCA報告書のように、第三者レビューを含むLCAの実施と詳細な報告の公開も期待します。
海洋プラスチックごみ問題については、国際的にも重要な課題であり、屋外暴露試験と劣化評価について科学的な知見を得る努力は重要なことです。しかし、この項目は内容や記述が学会発表での専門家向けとなっており、本報告書の読者の多くには理解が難しいでしょう。なぜこのような劣化評価が必要なのか、その結果として得られた知見は海洋プラスチックごみ問題の解決にどのようにつながっていくのか、市民に向けた平易な解説が望まれます。さらに、海洋プラスチックごみ問題への貢献として、海洋に流出してからの挙動の理解に加え、海洋に流出させないための取り組み方針や市民に向けたメッセージが必要です。
市民向けという観点では、協議会の会員団体による自販機横などの空き容器回収ボックスの投入口の改善や、協議会が取り組んできた一部の輸入製品の着色ボトルの無色化要請の取り組みなど、市民には気付きにくい地道な活動の紹介も読者視線の報告になるでしょう。
昨年も書かせていただいたのですが、これだけの世界に誇る日本のPETボトルのリサイクルシステムが海外の方に十分に知られていないことは残念なことです。本報告書の英語での発行、Webサイトでの英語ページの充実、海外の関連団体や学術会合での積極的な発信が強く望まれます。
今後も質的に高度で安定した資源循環システムの発展に向けて、協議会が大きな役割を果たしていただきたいと思います。