河川から回収されたPETボトルの分析

PETボトルリサイクル推進協議会 高橋浩二、浅野正彦
群馬大学大学院 黒田真一、四日市大学 千葉 賢

1.緒言

海洋プラスチックごみ問題に社会的関心が集まっている中で、河川や海に散乱するPETボトルが話題になることがある。本発表者らは、2018年の台風21号、24号で愛知県の庄内川と新川の中堤防に漂着した多数のPETボトルを回収し、製造された時期を調査した。さらに、その調査結果より、20年前に製造されたことが判明したPETボトルの劣化状態を分析した。

2.PETボトルの回収と製造時期の調査

写真1は、2018年10月23日の庄内川河口の状況である。河岸に漂着したPETボトルは、アルミキャップのついたものや緑色の着色ボトルなどが散見された。PETボトルリサイクル推進協議会ではPETボトルのリサイクルに大きな影響がないよう自主設計ガイドラインを設定し、1998年にPETボトルのアルミキャップを禁止、2001年には着色ボトルを禁止した。よってアルミキャップがついているPETボトルは、1998年以前に製造されたもの、着色ボトルは、2001年以前に製造されたものとわかる。

かなりの数量のアルミキャップのついたPETボトルや着色されたPETボトルは、朽ちることなく原形を留めたままで形状を維持していることが目視からわかる。

本発表者らは、これらのPETボトルを無作為に460本回収し、PETボトルに刻印されているメーカーの協力を得て、230本の製造年(販売年)を特定した。図1には、それぞれの年代ごとの比率を表している。

3.分析

製造年が特定できた数本の回収されたPETボトルと同形状で現在でも販売している未使用のPETボトルを用いて劣化の状態を評価した。使用したサンプルは、表1の通り。

材質鑑別:JIS K0117:2017(赤外分光分析通則)による。

試験方法:ATR法
測定箇所:①ボトル外面、②ボトル内面

分子量: JIS K 7252-1:2016

カラム: Shodex GPC LF-404×2(昭和電工株式会社製)

移動相: ヘキサフルロイソプロピルアルコール(+10mmol/L トリフルオロ酢酸ナトリウム)

流量: 0.3mL/min、カラム温度:40℃、検出器:RI

試料濃度: 0.2 w/v% 注入量:10μL 

分析装置: GPC-104(昭光サイエンティフィック株式会社製)

サンプリング箇所: ①ボトル外面、②ボトル内面

電子顕微鏡観察

使用機器: 走査型電子顕微鏡(VE-8800)株式会社キーエンス製

使用倍率: 1,000倍、 測定箇所: ①ボトル外面、②ボトル内面

4.結果と考察

サンプルA(緑色ボトル)において測定したATR-FTIRでは、ボトルの外面と内面ではいずれも1715cm-1付近の特徴的なピークのところで内面のピークより外面のピークがブロードになっていた(図2)。また、GPCによる分子量の測定ではボトル内面のMn=6,600、Mw=17,000、Mw/Mn=2.6が、ボトルの外面では、Mn=3,100、Mw=12,000、Mw/Mn=4.0と外面での分子量低下が見られた(図3)。

また、サンプルB(クリアボトル)においても、ATR-FTIRでは同様に外面のピークがブロードで、GPCでは、ボトル内面のMn=6,800、Mw=17,000、Mw/Mn=2.5が、ボトルの外面では、Mn=4,900、Mw=14,000、Mw/Mn=3.0と外面での分子量低下が見られた。

さらに、サンプルCとサンプルD(Cの未使用品)の外面同士をATR-FTIRで比較すると1715cm-1付近のピークは、サンプルCがサンプルDよりもブロードであった。

また、電子顕微鏡による表面状態の観察では、それぞれのサンプルにおいて、外面と内面のクラックの有無を確認した。サンプルAの外面に若干のクラックを認めただけで、それ以外ではクラックの発生は確認できなかった(写真2)。

5.まとめ

河川から回収されたPETボトルは、20年近く環境中に放置されていたにも関わらず形状を保ったままであった。さらに、ATR-FTIR、GPCおよび電子顕微鏡による化学的分析を行った結果、PETボトルの外面は分子量低下などの若干の劣化は確認されたものの、マイクロプラスチックになるような兆候は見られなかった。

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