第三者意見

石川 雅紀(いしかわ まさのぶ)
神戸大学 名誉教授

1978年東京大学工学部化学工学科卒業、工学博士。東京水産大学食品工学科助教授を経て2003年より神戸大学経済学研究科教授。2019年定年退職し現在は神戸大学名誉教授。2006年、廃棄物の発生抑制を目指すNPO法人ごみじゃぱんを設立、代表理事として、減装(へらそう)ショッピングを展開している。専門は、環境経済学、環境システム分析。
政府、自治体の審議会などで3R、廃棄物政策、LCAなどの専門家として活動。減装ショッピングはダイエーが近畿・中部70店舗で常時展開するところまで拡大し、2007年度グッドデザイン賞(新領域デザイン部門)、平成24年度3R推進功労者表彰内閣総理大臣賞、平成24年度こうべユース賞、低炭素杯2015環境大臣賞金賞(地域活動部門)、2017第18回グリーン購入大賞を受賞した。

石川 雅紀

 全体を通して、PETボトルのリサイクル、リデュースが高いレベルに保たれていることが示されています。これまでの関係者の努力が実を結んでいることがよくわかりますが、さらに高みを目指すという視点から見るとこれまでの施策は、飽和状態に近づいており、長期的な視点から構造的に考え直すべき時期であるように感じます。

 昨年来社会的注目を集めている海洋プラスチックごみ問題に関しては、流入経路、流入量、海洋中の存在量など基本的な情報が欠けていることがもっとも基本的な問題ですが、漂着ごみの年代分析、自治体の可燃ごみ区分などへの混入量の推計など地道な努力を重ねています。海洋プラスチックごみに関してはフロー、ストックなどの基本的情報を得ること自体が大変困難を極める問題ですから、PETボトルリサイクル推進協議会の努力には大きな期待がかかります。

 近年は、中国によるスクラップの輸入規制の影響が世界的に広がり、世界的にPETを含む使用済みプラスチックのリサイクルが大きな影響を受けましたが、その中で日本に対する影響は、懸念されたほどではなく、PETボトルに関しては比較的軽微に済みました。これは、1996年公布された容器包装リサイクル法による資源循環制度(以下、容リ制度)の整備によるものです。

 日本では、回収物の約半分を占める自治体回収の家庭系PETボトル入札価格はほとんど影響を受けていません。残りの事業系PETボトルは、これまで大半が輸出されていたため、短期的に滞留するケースも見られましたが、東南アジア諸国で通関基準が甘いとされる国に輸出されているようです。これらの国でも基準は厳しくされる傾向にあり、事業系PETボトルのベール品や単純な粉砕品の輸出は今後一層リスクが高くなることは確かです。高いリスクにもかかわらず輸出が継続しているのは、海外での買い取り価格が国内価格よりも高いためです。事業者は、ハイリスク・ハイリターンの輸出と、ローリスク・ローリターンの国内出荷のポートフォリオを組んでビジネスを展開しています。

 海外での買い取り価格が高い理由はケースにより複雑ですが、人件費が安いこと、実質的環境規制レベルが低いことなどがよく言われます。このほかに、海外の資源再生企業の中には、国内企業よりも遙かに大きな企業があり、これらの企業は、生産性で国内企業を上回っている可能性が十分あります。
 国全体としてみると、事業系PETボトルの輸出は、相手国の通関基準という外的要因の影響を強く受け、自らはコントロールがきかないという意味で大きなリスクです。また、国内企業の生産性を上げ、競争力を強化するという視点からも事業系PETボトルのベール品や単純粉砕品などの低付加価値・潜在汚染性の回収物の輸出については、実態を詳細に調査した上で検討の必要があると思います。

 国内では、大手飲料メーカーがBottle to Bottleの推進をコミットしたことから、品質の良い再生PET樹脂の価格が上がり、近年では、バージン樹脂以上の価格も聞かれます。各社のコミットメントを集約すると自治体収集量では間に合いません。この面でも事業系PETボトルが注目されます。

 事業系PETボトルは、現状では、企業としてのコミットメントと、製品設計がうまく連動していないという懸念があります。例えば、事業系PETボトルでは、屋外消費が多いこと、コンビニ・自販機を見ればわかるとおり、寒い時期にはホット飲料の割合が家庭系よりも多くなると考えられますが、ホット販売用ボトルにはナイロンが使われ、リサイクル工程での分離は完全にはできず、黄変の原因となっています。また、再生資源の利用先として導入されたPETラベルも、本体の軽量化が進むことで、極薄ボトルのフレークとPETラベルは厚み、物性が近いため風力選別での歩留まりが落ちてしまいます。ラベルに関しては、かつてシュリンクラベルであったものが現在は粘着剤で固定する方式となっており、糊が残留することも黄変の原因として疑われます。このような事業系PETボトル特有の問題の有無、程度は実態調査で明らかにすることが望まれます。もし問題がある場合は、原因は製品設計を行っている飲料メーカーが選択できる事項ですから、製品設計を改善することで多くのメリットが得られる事が期待されます。

 かつて容器包装リサイクル制度を立ち上げたときに飲料業界は、PET以外の素材の自粛、色つきボトルの自粛、アルミキャップの自粛など自主的対策によって他国では例を見ないほど高品質なボトルをデポジット・リファンド制度もなく高い回収率を達成しました。次のステップにのぼる上で、事業系PETボトルで懸念される問題について実態を調査し、もし、問題があるようなら、静脈側との情報交換を密にして、自主的に解決することを期待します。

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