プロセスシステム工学およびライフサイクル工学を専門とし、環境に配慮した化学プロセス設計、持続的社会を目指した社会システム設計、持続可能な消費と生産の研究を行っている。日本LCA学会会長、経済産業省産業構造審議会容器包装リサイクルワーキンググループ委員、環境省グリーン購入法特定調達品目検討会委員、グリーン購入ネットワーク会長、エコマーク運営委員、(一社)産業環境管理協会環境ラベルプログラムアドバイザリーボード委員、アーティクルマネジメント推進協議会(JAMP)アカデミアアドバイザリーボード委員などを務める。
<著書>
「統合学入門」(共著)、「VOC排出抑制マニュアル」(監修)
研究活動の一環で、企業の工場を見学させていただく機会がありますが、目に付くのはそこで働く方々のユニフォームに付けられたエコマークです。エコマークが付いているユニフォームの多くはPETボトルからの再生繊維が原料になっています。このユニフォームも着古した後に回収され、リサイクルすることができます。PET樹脂・ボトルの製造者から始まり、飲料等事業者、消費者、自治体、再生事業者、衣料製造者を経て再び消費者が使う製品になる循環は、団体競技としての循環型社会のモデルとも言えます。今回の報告書で取り上げられているミズノ株式会社の取り組みは、このような循環チームのプレイヤーとしてとても参考になるものでした。
本報告書は、このようなベストプレイ事例を紹介し、プレイヤーの継続的な取り組み成果を報告することよって、事業者団体である協議会からチームプレイヤーに活動の振り返りとこれからの方向を伝え、共に考えるためのメッセージとして有益なものです。
今年度の報告書では、初めてリサイクル効果のライフサイクル分析による評価が報告されました。これまでも事業者によるリデュースの効果は評価・報告されてきましたが、今回はリサイクルを含む循環システム全体からのCO2排出量が、リサイクルによってほぼ半減できることが示されています。リサイクルは、上流側の資源採取量の削減、下流側の廃棄物量の削減に加えて、温暖化対策としても有効であることがよくわかりました。リサイクルは手間もコストもかかり、リサイクルの過程で環境に負荷をかけているのではないかと心配をする議論もありますが、このような定量的な分析とその見える化は、循環の輪に参加するプレイヤーを勇気づけるものです。
分析は、専門家から見ても丁寧に実施されていますが、その解説は1ページと短いこともあり、やや難しい内容でした。今後は、このような調査研究の成果をプレイヤーにわかりやすく見える化する方法が課題でしょう。また、専門家の視点からは、CO2排出にとどまらず、資源や水の消費など他の指標についての評価、一部で採用されているバイオマス由来原料利用の評価などにも取り組んでいただきたいと思います。
本年度の報告書では、協議会による第3次自主行動計画の策定の報告がありました。報告書として毎年公表されてきた成果を確認し、PDCAによって新たな目標を設定し、行動計画に反映することは、循環型社会の構築という目標に向かう大事なステップです。自主行動計画には、製造事業者が自ら取り組む行動と、チーム全体を啓発して取り組む行動があり、前者についてはリデュースとリサイクルのさらなる推進が目標となっています。特に軽量化率は、第2次計画の目標である15%からさらに5ポイントの軽量化を掲げており、事業者の意気込みを感じます。チーム全体への啓発は、広報活動のさらなる展開を目標としており、様々な主体の参加による意見交換会やフォーラム等の場をさらに充実していただきたいと思います。効果の見える化によって議論が発展・深化することも期待しています。議論の成果は、プレイヤーへフィードバックすると共に、制度設計への提案としても活かしていただきたいと思います。
昨年は、国連で「持続可能な開発目標」(SDGs)が採択され、気候変動に関わるパリ協定が採択されました。G7サミットでは資源効率性が議論されました。これまでの軽量化率やリサイクル率目標を基礎としながらも、国際的な議論に貢献する行動計画も今後の検討課題でしょう。
容器包装の環境配慮や、プラスチック再生材料の品質マネジメントシステムが規格になるといった動きもありました。標準化によって再生材料の高機能化を図り、付加価値を上げることは、リサイクルシステムの高度化と円滑な運用につながります。質を問わずに再生材料を使ってもらうという段階から、標準化を活用し、循環型社会に向けてステップアップするための議論も進めていただきたいと思います。
今回は、容器包装リサイクル制度合同会合への意見提出についての報告がありました。20年以上の歴史を持つ容器包装リサイクル制度と協議会の取り組みによって、PETボトルリサイクルについても多くのプレイヤーが参加し、大きな成果を挙げ、技術開発などでベストプレイを生み出してきました。PETボトルはリサイクル優等生という認識は誤っていないと思いますが、海外や一部の自治体プレイヤーの行動、および国際経済要因によるシステム全体の不安定性や、プレイヤーによって異なる理解、多様な回収ルートの存在など、オープンな議論を経て制度に反映すべき点はまだ多く残っています。
協議会には、多様なプレイヤーが顔を見ながら意見交換する場などを活用し、循環の輪の全てのプレイヤーが協調し、循環型社会の実現を目指すリサイクル制度の深化に貢献することを大いに期待しています。