第三者意見

画像:平尾 雅彦氏(ひらお まさひこ)

平尾 雅彦氏(ひらお まさひこ)
東京大学大学院工学系研究科化学システム工学専攻 教授

プロセスシステム工学およびライフサイクル工学を専門とし、環境に配慮した化学プロセス設計、持続的社会を目指した社会システム設計、持続可能な消費と生産の研究を行っている。日本LCA学会会長、経済産業省産業構造審議会容器包装リサイクルワーキンググループ委員、環境省グリーン購入法特定調達品目検討会委員、グリーン購入ネットワーク会長、エコマーク運営委員、(一社)産業環境管理協会環境ラベルプログラムアドバイザリーボード委員、アーティクルマネジメント推進協議会(JAMP)アカデミアアドバイザリーボード委員などを務める。
<著書>
「統合学入門」(共著)、「VOC排出抑制マニュアル」(監修)

飲み終わったPETボトルからキャップをはずし、ラベルをはがし、分別して排出することは、今や消費者の日常行動になりました。飲料メーカーの広告では、中身ばかりではなく、ボトルの環境配慮を訴求するものが登場しています。昨年の報告書で書かせて頂いたとおり、リサイクルは優れた技術に加えて、団体競技として参加する全プレイヤーのチームプレイによって成立します。私も教育に携わるプレイヤーとしてPETボトルのリサイクルをテーマに講義を行っていますが、海外の色つきボトルと対照的な軽量化され無色で印刷のないボトル、海外と比べて高い回収率・再資源化率、身の回りで活用される再利用品などチームプレイで支えられるリサイクルシステムを学ぶ最高の題材となっています。プリフォームからのボトル成形技術、光学・比重・風力などの選別技術、化学的・物理的処理によるボトルtoボトル技術、植物由来原料からの製造技術などは、技術系の学生にとっても素晴らしい実教材です。
この報告書はこれらのプレイヤーにそれぞれの役割と優れたプレーの方法、チームプレイの成果を示すものです。継続的なリデュースやリサイクル率の調査報告は、チームの戦力強化の歴史といえるでしょう。

チームプレイの成果とシステムの安定化

具体的な成果としては、リデュース、リサイクル、環境負荷の削減が大きなポイントになります。リデュースへの取り組みは容器・飲料メーカーの継続的な取り組みによって毎年進展が見られ、大いに評価します。出荷本数の増加にもかかわらず、製造までの環境負荷が削減されているのはこの成果です。
リサイクル率については、目標の85%を下回る結果になりましたが、極めて高い水準を維持していると言えます。自治体ルートはもちろん、事業系の回収率の高さも特徴的です。事業者の取り組みとして紹介されている防衛省のように、組織としての活動の充実も大いに貢献しています。調査結果をよく見ると、指定法人への引き渡し量は減少しているにもかかわらず、国内再資源化量は増加、海外再資源化は大きく減少となっており、独自処理の自治体や事業系など海外再資源化に依存していたルートにおいて、海外の市況や需要の変動の影響を受けているように見えます。この調査は、流れ(フロー)を見ているため、在庫(ストック)となっている可能性があります。過去にも起きたことですが、海外チームの影響で国内チームの成果が下がったように見えている可能性があります。システム工学の立場からは、内部の高いパフォーマンスに比して、システム外の変動によって状態が不安定になりやすいシステムということになります。この点は、まだ課題として取り組みが必要です。
環境負荷の削減については、リサイクルに関わるプレイヤーの行動の環境価値も評価していただきたいと思います。リサイクルによる環境負荷削減効果は、再商品化でどのような製品になるかによっても変わるので簡単に計算できるものではありませんが、少しずつでも取り組みを進めていただきたいと思います。

海外調査の意義と新たな海外プレイヤーとの連携

今年は、欧州と中国における海外調査報告が掲載されました。欧州では、混合収集やデポジット制、役割分担、カラーボトルの存在など日本とは異なる制度の効果を見ることができます。リサイクル率から見ると日本の仕組みの優位性がよくわかります。一方、カラーボトルが多い割には、飲料ボトルへの再商品化割合が大きいことは一考に値します。カラーボトルで再生樹脂を利用し易くし、かつ再生樹脂混合率を低めにするという選択は、日本の無色ボトルによって価値を高め、再商品化用途の高度化を目指す取り組みと比較して議論することができます。近年、資源をどれだけ有効に利用したかという資源効率指標に関心が高まっています。再資源化・再商品化の高度化のためにはこのような指標での議論も有効でしょう。
中国は、日本の使用済みボトルの輸出先としての調査報告ですが、前述のように日本チームへの影響が大きい海外プレイヤーですので継続的に調査を続け、日本の仕組みのあり方の議論に反映していただきたいと思います。また、再商品化は、繊維が中心のようですが、それがどのような製品になり、どこで消費されているのかという調査にも期待しています。
昨年に続けての意見になりますが、海外プレイヤーとの連携という意味では、アジア各国でのPETボトルの生産・消費が増えていく中で、日本のチームプレイを知ってもらうという取り組みも協議会の役割として期待しています。この年次報告書の英語版や英文ホームページの充実なども検討していただきたいと思います。

さらなるチーム強化のために

チーム強化にはプレイヤー間のコミュニケーションによる連携、ベストプレイの共有が鍵になることは言うまでもありません。協議会が高い目標を持ち、フォーラムやセミナーなどの顔の見える地道な取り組みを一層充実し、学校教育などを通したこれからの世代への啓発を推進していただきたいと思います。

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