第三者意見

画像:織 朱實氏(おり あけみ)

織 朱實氏(おり あけみ)
関東学院大学法学部教授 法学博士

環境法に係るリスクコミュニケーションを研究し、環境リスクマネジメント、リサイクル、廃棄物、化学物質に関する分野で活躍。環境省中央環境審議会専門委員、経済産業省産業構造審議会委員、文部省科学技術学術審議会専門委員などを務める。
〔著書〕
『環境リスクと環境法(米国編)』『環境リスクと環境法(欧州編)』(共著)、『よく分かる廃掃法、リサイクル法、容器包装リサイクル法』、『PRTRとは何か』(共同講演録)など

PETボトルリサイクル年次報告書を読むのも、2012年度の今年で3回目となります。その間に、東日本大震災があり、中国へのPETボトル流出問題があり、べール市況の大幅な変動がある等、PETボトルを巡る環境も変わってきました。特に、今年度は国際的にバージン樹脂の価格が下がり、連動して再生フレークの価格も下がるという現象が生じ、PETボトルリサイクルにも大きな影響を及ぼしています。容器包装リサイクル法の下でのリサイクルシステムは、市町村の回収量を想定してインフラが整備されていますが、実際には市町村の独自ルートを含め様々な要因でインフラの需要を満たすだけの使用済みPETボトルが市場に出回っておらず、そこにリサイクル業者が集中しているという構造になっています。こうした構造であるために、入札価格が高くなってしまう傾向にあり、市況の変動に対応できていないのが現状のようです。PETボトルのリサイクルをめぐる解決しなければならない問題はまだまだ残されています。
そうした中、PETボトルリサイクル推進協議会は、年次報告書を市民にも読みやすく、わかりやすくしようと、毎年、紙面に新しい工夫を凝らしていることを高く評価したいと思います。例えば、今年度の表紙は、今までの「綺麗」な表紙から、推進協議会が目指しているものがイメージできる一歩踏み込んだデザインとなっています。中を見てみますと、いまだ文字が多すぎる感はあるものの、図表を大きくしたり、「専門用語・業界用語集」を加えるなど、市民に「理解してもらおう」という意気込みが感じられます。
以下では報告書の中から、いくつかのポイントについてコメントをします。

(1)「ボトルtoボトル」の進展

今年の大きなポイントは、ボトルtoボトルのリサイクルが進展したことでしょう。2011年には、ビジネスからビジネスへと、企業ベースの、PETボトルのメカニカルリサイクルが実用化されました。ボトルtoボトルは、PETボトルのリサイクルの一つの目指していた姿でありますが、安全衛生の基準が厳しく、メカニカルリサイクルではクリアすることが難しいとされていました。それが実現された背景には、企業の技術力もさることながら、品質の高いPETボトルを集めるため、市民の徹底した分別排出と市町村の分別収集システムがあるからです。
PETボトルの特徴の一つである水平リサイクルに向いている特性をさらに進展させる第一歩といえます。しかし、報告書の中で、ボトルtoボトルの実用化の日本での意義、今後への展開、データなどの記述が他の記述と比較して少ない点が残念です。来年度は、どのように進展したかも含め、より充実した記載がなされることを期待します。

(2)ボトル軽量化の効果

リサイクルよりもまずはリデュースということで、PETボトルがどこまで軽量化できるかも注目していました。報告書によれば、今年度も順調にPETボトルの軽量化がすすめられているようです。推進協議会では、自主行動計画でリデュースの目標値を「2011~2015年度で、指定PETボトル全体で10%軽量化(2004年度比)」と定めていますが、2011年度は指定PETボトル全体での軽量化は10.5%と目標の早期達成がなされています。量で見てみると、行動計画値を2万2000トン上回る6万8700トンとなっています。これだけ数字が伸びた背景には、東日本大震災の際に、運搬負担を軽減するために最も軽量化されている2LのミネラルウォーターのPETボトルの増産があったことも大きな要因でしょう。震災後、来年度のデータがどのように変化していくのか注目されます。

(3)使用済みPETボトルのリサイクル率の捕捉

3R政策を立案し実施していくためには、回収量やリサイクル率の正確なデータが何よりも重要になってきます。容器包装リサイクル法の定着とともに、分別排出意識が高まってきたこともあり、現在様々なPETボトルの回収ルートがあります。これらは、3R政策全体としては回収ルートの多様化として望ましい方向ではありますが、一方でデータの捕捉が難しいという問題もあります。PETボトルについても、ここ数年間の回収ルートの多様化により、推進協議会でも、特に事業系回収量の正確な把握が課題でした。報告書によれば、推進協議会は2011年度からこの問題に取り組み、調査対象リストの拡充を努めてきたようです。調査対象となる回収業者を捕捉するために、産業廃棄物処理業の自治体の公開名簿などを網羅的に精査し、従来リストとの重複を整理しながら、今までの300社から2011年度は1000社へと対象リストを拡充することが可能になったとのこと。これにより、実態に近い事業系ルートの回収量捕捉が可能となったと言えるでしょう。データで見てみると、これらの対象リストの拡大を受けて、事業系ルートの回収量は、昨年度と比較して約5万トン上積みされています。あわせて、回収率が72.2%から79.6%となり、リサイクル率も83.5%から85.8%と変わりました。推進協議会は自主行動計画の目標指針を回収率から「リサイクル率85%以上の維持」へと変更しましたが、初年度にすでに目標の85%を達成したことになりました。もともと昨年度までのデータが、事業系ルートの十分な捕捉ができていなかった上での結果ですので、簡単に上昇ともいえないのですが、今後に向けて事業系ルートの把握が進んだことは高く評価できますし、今後もより正確なデータの捕捉に向けて多様な回収ルートによる回収量の把握に努めてもらいたいと思います。

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