第三者意見
写真:織朱實氏
織朱實氏(おりあけみ)
関東学院大学法学部教授 法学博士
環境法に係るリスクコミュニケーションを研究し、環境リスクマネジメント、リサイクル、廃棄物、化学物質に関する分野で活躍。環境省中央環境審議会専門委員、経済産業省産業構造審議会委員、文部省科学技術学術審議会専門委員などを務める。
〔著書〕
『環境リスクと環境法(米国編)』『環境リスクと環境法(欧州編)』(共著)、『よく分かる廃掃法、リサイクル法、容器包装リサイクル法』、『PRTRとは何か』(共同講演録)など
さらに見やすくなった報告書
昨年第三者意見を書かせていただき、1年が経過しました。毎年、市民に「わかりやすい年次報告書」を目指す誌面づくりの努力をなさっていますが、今年もその成果が表れ、図表レイアウトともに、昨年と比較してより一層「見やすく」「分かりやすい」ものになっている点を評価したいと思います。ぱらぱ らとページをめくっただけでも、市民の関心の高い2009年度のPETボトル回収・再商品化の流れの図、PETボトル再商品化の流れの図が、今までよりも、大きく、単純な流れで図示され、見やすくなっているのが分かります。強調したい2009年度のトピックスも昨年より絞りこまれ、協議会の問題の関心が明瞭になっています。以下では、今年の年次報告書の中で特に気がついたポイントについてコメントをします。
PETくずの中国への輸出問題
今年に入って、環境政策における中国の影響がさまざまな分野でみられるようになってきています。今まで国内で一生懸命リサイクルに向けて、分別排出をしていた市民にとって「中国へのPETくず流出問題」は遠い問題で、関係がないように考えられていたと思います。しかし、今はその影響を自分たちのリサイクルの問題として真剣に考えなければならない時期に来ていると思います。とはいえ、具体的な政策を策定するにしても、実際に市民の努力によって自治体に集められたPETボトルが、どのくらい、またいくらで中国を含め海外に輸出されているのか正確なデータがないのが現状です。今年度の年次報告書では、この問題について「新たな混乱へ」というサブタイトルのもとで簡潔にまとめられています。関心がなかった層も、これからどんなことが起こるのか、考えてみる一歩となる貴重な資料でしょう。ただ、残念なのは、データから進んで、中国・海外への輸出が増えると国内リサイクルにとってどのような弊害があるのか、そうした点について触れられていないことです。現在のPETくずの国内リサイクルの実情とあわせてそうした記述まで踏み込んでもらえれば、市民にとってもより分かりやすいものになったと思います。
回収率を、実質的回収率へさらにリサイクル市場の育成
今年度の報告書では、今まで混乱ぎみだったリサイクル率への統一化に向けて、まずは回収率をより実質に近いものに変えた点が大きな特徴でしょう。従来の回収量に替えて、実質的回収量は、新たにPETくず輸出量中のPETボトルを推計し、国内向け回収量を加えて算出しています。より実質的な回収量・リサイクル率を算出するために、貿易統計のPETくず輸出量のデータを活用している点は注目されます。今年の数字では、実質的回収率が100%を超えていますが、回収に伴うキャップ、ラベル、異物の混入割合が経年でおおよそ分かればそれを除外したより実態に近い数字が出されることになると思います。
また、より正確な数字が明らかになってくると、次にはこの高い回収量をベースとして何にリサイクルされているのかと、リサイクル市場の拡大が課題になってくるでしょう。ステークホルダーダイアログのテーマにもあるようにこの問題への対応の一つが、市民への協力を求める啓発ツールの有効活用でしょう。リサイクルの『見える化』が昨年までの大きな課題でしたが、これからは更にその市場を広げていく「リサイクル市場の育成」が大きな課題になってきます。「リサイクル材料使用」と表示すると消費者が購入してくれない、というメーカーも現実には多く、市民の購買行動の変化と、製造メーカーの意識改革が行なわれる必要があるのでしょう。そのためには、市民に現在のPETボトルのリサイクルが抱えている問題、例えば「海外への流出問題」、「安定的資源確保の困難さ」、「品質確保の必要性」等を、より分かりやすく伝えていくことが必要になってくるのでしょう。
今後に期待すること、リデュースに向けての取り組み
リサイクルではなく、リデュース、リユースに向けてどのような取り組みが行えるかは、リサイクルの効率化も一定の限界がみえてきた現在では特に重要な課題だと思います。PETボトル業界を含め、なかなか解がみつからない問題ですが、関係者が議論を重ね、なんとか解決の糸口を見つけたいものです。次年度では、業界だけでなく市民、行政も巻き込んで、『薄肉化』『軽量化』に迫る新しい提案を提示できるように、さまざまな機会を通じて対話を継続していただきたいと思います。また、リデュースを含め、環境問題は、一つのセクターだけで解決できる問題ではありません。PETボトルの3R促進についても、市民、行政はもちろんのこと事業者サイドもPETボトル製造メーカー、充填メーカーだけでなく、小売・流通業、自動車・繊維メーカー等さまざまな業種の協力がなければ達成することはできません。これからの年次報告書では、こうした他業種との協力関係をどのように築いていくのか、そこまで踏み込んだ取り組みの紹介が必要になってくるでしょう。
(21)
TOP BACKNEXT
●PETボトルリサイクル年次報告書